月刊ライフビジョン | off Duty

次の課題は避難所の居住性

曽野緋暮子

 毎年11月中旬を過ぎるとKさん宅に葉牡丹を頂きに行く。私とちょうど一回り年上の「歩き仲間」と1駅分、約5km歩いてお邪魔するのが恒例となっている。K夫人の手料理ランチも楽しみだ。
 Kさん宅は西日本豪雨で決壊が心配された高梁川の土手下にある。いつも高梁川を見ながら土手道を歩く。春に歩いた時は消防操作法大会実施準備で整備されていた河川敷のグラウンドは、上流から流れて来た土砂や流木等で荒れ果てていた。軽自動車が1台泥に埋まっていた。土砂や流木で川幅も随分変わっている。4ヶ月が経とうとするが、住民の生活優先で手が回っていないのだろう。Kさん宅近くに昔からのお地蔵さんや、荒神様を守るような大きな木が立っている。今夏の酷暑の影響か、豪雨の影響か葉っぱが変色していた。それでも川の決壊を守ってくれた感謝の気持ちでお地蔵様、荒神様に水をあげ手を合わせた。
 Kさんは若い頃から足にハンディキャップがあった。それを克服するためにマラソンや登山に励んでいた。10年前位から腰が悪くなり難易度の高い手術を受けて、移動時には歩行車が必要になった。最近は椅子に座るより寝ている方が楽なのだそうだ。
 7月の豪雨時、K夫人からLINEで「川の水位は今までで一番上がっているけれど大丈夫だから心配しないで。我が家が駄目だったら市内全部が駄目になるんだから。」と返信を貰って安心していたが、本当は大変だったそうだ。
 7月6日午後、避難勧告が出たが避難所に行くのは大変だし、避難所では休まらないと思い、自宅にいた。そこに近所に住む甥が「おじさん避難しなくっちゃあ駄目だ。」と迎えに来た。子どものいないK夫妻はこの甥に最後を託すことにしているので不承不承、言うことを聞いて避難所行きを決めた。手近にあったペットボトル数本とパンを持って甥の車で避難所へ。「家族を連れてすぐ戻って来るから」と彼は自宅へ折り返した。

 避難所の中で落ち着けそうな場所を探すと、玄関傍にカーペットと応接セットがあった。Kさんは掴まる物がないと起き上がれない。応接セットの椅子はソファー仕様で体が沈み込み、腰に負担がかかって辛い。しかし寄りかかる所がないと過ごせないので、まだ空いていた椅子を選んだ。市の対応が早く食料は順調に届き飲食には困らなかったが、腰の痛みで落ち着かない一夜を過ごした。

 翌日甥が様子を見に来てくれた。橋が通行止めになり動けなかったとか。腰の痛みで避難所暮らしはムリと判断して直ぐに、自宅へと送って貰ったそうだ。東日本大震災、熊本地震等以降避難所の改善は進んでいるが、避難者皆がムリなく過ごせる環境はなかなか難しいようだ。
 4日間避難所暮らしだったと言う友人も、愛犬が一緒だったので夜間は危険を承知で自宅に帰っていたと聞いた。アレルギーの人にはペットと一緒に過ごすことを嫌う人も多く、避難所の中に入れることは禁止されている。室内犬は家族と離れて外にいるとずっと鳴くそうで、そうなると皆に迷惑をかけないように夜間は避難所を離れるしかない。ペットより人命優先と思うが、「ペットは家族です」と言う人が多くなった今、こちらも避難所運営としては大きな課題のひとつだろう。