論 考

大平正芳

 今年は日中平和友好条約40年に当たる。今朝の朝日社説について書く。

 社説子いわく――当時外相だった大平正芳氏が、日本と中国の関係は「おおみそかと元旦みたいなものだ」と語った。おおみそかと元旦では気持ちも景色もがらりと変わる。隣国ながら大きな相違点があるという意味であろう。(要旨)

 大平氏が「おおみそかと元旦」と言ったのは、この社説子の解釈と正反対だとわたしは考える。(本人がそのように説明したのでなければ、この解釈は正しくない)

 大平氏は、かつて興亜院に勤務したこともあり、中国に対して深い贖罪の気持ちを抱えていた。これは本人による事実である。

 この「おおみそかと元旦」は、高浜虚子の句「去年今年貫く棒の如きもの」を意味したのだと、わたしは考える。

 虚子の句は、鎌倉駅に貼りだしてあった。たまたま川端康成氏が見て、素晴らしいというわけで随筆に書いたので、一躍有名になった。

 その意味は、「去年と今年で、人はなんとなく断層を感ずるけれども、実は、格別変わっているわけではなく、いわば一本の棒のようなもの」だというのである。まことに正鵠を射る表現である。

 大平氏はこれを日中関係にたとえて、違っているように見えるが、隣国であり、2千年の交流の歴史があり、一本の棒のようなものだと言いたかった――と解釈するのが妥当である。

 小さな事柄ではあるが、気がかりなので指摘しておく。