月刊ライフビジョン | off Duty

「ながら」仕事とダイバーシティ

曽野緋暮子

 生後7か月の長男を抱いて本会議場に入り、乳児同伴で本会議に出席しようとした熊本市会議員が、議長や議会事務局員らに説得されて断念、議員一人で出席した。この騒動で本会議開会は40分遅れた。テレビのニュースでは当該議員が涙を浮かべて、「子育てと仕事を両立しようとしている女性たちが直面している問題を体現したかった」と説明していた。翌日の新聞には「事前に議会事務局に相談したが、ベビーシッターを雇って下さいという対応でラチが明かないと思った。」とのコメントが出ていた。

 ふざけんな! この市会議員は本気で仕事をしたことがあるのか、仕事の会議に出たことがあるのか、議員の仕事をなんだと思っているのか、子育てもなめていないか。社会にはルールがある。不当なルールならば、破るより先にルールを変えるのが議員の仕事だろう!

 生後7か月と言えば母親から受けた免疫力が弱くなる時期で、雑菌だらけのオジサン、オバサンが詰まっている議場に何時間も閉じ込めるのは子どもにとって酷だと思う。普段は良い子でも環境が異なれば泣いたり、お乳を欲しがったりするかもしれない。そんな中で議事に集中できるのか、議員は「ながら」仕事なのか。

 一般の会社でも、職場によっては「ながら」仕事もあるだろう。しかしその椅子は多くないだろうから、施設内保育所等で対策するのが妥当かと思う。どうしても子供と離れたくないのならそちらを優先し、子どもの手が離れてから再度仕事を始めるべきではないか。筆者のような考え方に批判があるのは重々承知だが、個人的にはこの女性議員の発言、行動には違和感を禁じ得ない。

 この数日後、後輩W子とお茶をした。10数年前、W子の会社に初めての総合職として入社した女性がいる。研修期間が終わり実務に就くと半年ぐらいからウツ病で休職、復帰しては休職、を繰り返していた。その会社にとって初めての女性総合職で、周囲も対応に困惑していたのも確かだ。何度目かの休職中に結婚、妊娠。復帰後数ヶ月して産休、育休。復帰後またまた産休、育休、その育休復帰後、今は短時間勤務だそうだ。
 ここまでは目を瞑るにしても許せないのは、彼女が二人の子育てをしながら働く女性として、おまけにしっかり管理職に次ぐ資格を持つ女性として、会社のHPや社内誌でダイバーシティの広告塔になっていることだ。「オマエ、今までドンだけ仕事したんだ! と言いたいですよ~」とW子。「会社って、何考えているんですかね~?」

 ―― 今の時代、会社もダイバーシティとか、子育てとの両立支援とかを宣伝しないと人材確保に後れを取るから仕方ないよ。でも、本当に仕事ができる上司はちゃんと見ているよ。あなたが社内外で信頼され仕事を任されているのがその証拠だよ。会社から離れた時、達成感があるし、いろんな知り合いやいろんな場所に行って世界も広がっているから、きっと面白い人生が送れるよ――と、励ましにならない励ましをして別れた。

 けさ、ネットで熊本市議会の件でコメントがあった。「海外では子連れ議場入りは珍しくない。授乳する議員もいる」と。それがどうした! 海外ではなく日本でどうするかが問題だろう。子育ても議会も「ながら」でできる仕事じゃない。足元、うわついているんじゃない?