論 考

戦争を目的化する無頼漢

筆者 奥井禮喜(おくい・れいき)

 バイデン氏が、イスラエルがラファで大規模な地上作戦を開始するならば、イスラエルに対する武器供与の一部停止をすると警告した。

 アメリカがラファ侵攻を支持しないことは明確になった。ただし、ネタニヤフは目下聞き入れる兆しがない。アメリカ・イスラエル間の協議が続いている。

 EU機関要員100人余が先日、ガザ攻撃に対する抗議行動を展開した。国際法にも、EU条約にも、さらにジェノサイド条約に違反していると批判した。まともな見解による行動である。

 イスラエルがさらなる侵攻を推進することについては、おおかたの世界世論は反対である。ネタニヤフは四面楚歌だ。問題は、それがわかっていても改めないウルトラライト体質と、すでに、やっと薄皮一枚でつながっている首相の座だ。

 ネタニヤフからすれば唯一の解は、ハマスをテロリスト集団として嫌悪する世論を喚起しつつ、戦争を継続することにある。

 国際世論は、ハマス批判ではなく、イスラエル批判が強くなっている。実は、国内も意識調査によると、ユダヤ系国民の56%が、軍事作戦より人質解放の合意を優先している。アラブ系では89%である。

 だから、理屈ではすでにネタニヤフ戦略は破綻しているのだが、だからこそ、ハマスとの交渉を合意したくない。交渉しつつラファ攻撃を継続しているのは、なんとしてもハマス悪玉論に転換したいからだ。

 軍事行動でハマスを壊滅できるという考えは多数派ではない。軍事の専門家にしても、軍事解決は政治解決ではないから、政治解決を優先するのが本来のあり方だと指摘している。

 思えば、問題を軍事的に解決するという、単純な、しかし泥沼戦略を当然とする政治家が世界をかき回している。軍事をもって安全保障の中枢とする考えは政治家のサボタージュ、役割の放棄と変わらない。

 クラウゼウィッツ(1780~1831)の『戦争論』に頼るまでもなく、軍事は外交の道具でしかない。ところが、戦争を始める連中は外交が不得手である。だから直ちにこぶしを振り上げる。しかも、大人と幼子の関係ではないから、ドづいても相手が屈服しない。

 相手が屈服せず、問題が解決しないことに困惑するか? 彼らは実は、その状態をこそ望んでいる。つまり、軍事優先の政治を推進する政治家は、ステーツマンではなくアウトロー、無頼漢にすぎない。

 世界が危機的状況にあるとみる人は多い。なにが危機の元凶なのか。他国が原因ではない。自分たちの政治家が世界中に危機をばらまいて嬉々としている。だから、一度始まった戦争は終わらない。獅子身中の虫という言葉もある。