論 考

スチューデントパワー

筆者 奥井禮喜(おくい・れいき)

 イスラエルのパレスチナ攻撃に抗議し、アメリカのイスラエル支援に反対する学生運動が盛り上がっている。

 コロンビア大学、イエール大学、ニューヨーク大学、マサチューセッツ大学、ミシガン大学、テキサス大学、スタンフォード大学、カルフォルニア大学など50以上の大学でガザ攻撃に対する反対行動が展開されている。さらに、オーストラリア、カナダ、フランス、イタリア、イギリスの大学でも抗議集会などが開かれた。

 学生たちは、大学基金をイスラエル企業に投資することや、イスラエル企業に投資している企業への投資を止めるべきだと主張する。ただし、彼らは、反ユダヤのレッテルを貼られることを警戒している。

 ロードアイランド州ブラウン大学では、関連する企業がイスラエル関連の資金を引き上げることを検討する内容で、学長が学生側と合意し、学生は抗議テント撤去を受け入れた。学生たちは、「恐怖ではなく愛を」と歓迎の声を上げた。

 思い出すのはベトナム反戦における学生運動の盛り上がりだ。1965年2月7日の米国による北爆と、3月7日米部隊のベトナム上陸で、一挙に学生の反戦運動に火がついた。

 4月、民主社会をめざす学生組織(SDS)が、2万人を組織した集会デモを展開した。歌手ジョーン・バエズがフォークロックの反戦歌を歌い、ティーチインが全国に拡大した。

 1967年にはベトナム反戦は世界中に拡大した。5月、バートランド・ラッセルが国際反戦法廷を開き、アメリカを有罪の判決にした。10月21日は、日本総評提唱の国際反戦デーに世界中で集会デモがおこなわれた。ジョーン・バエズの『勝利をわれらに』(ウィーシャルオーパーカム)が世界中で愛唱された。

 ベトナム戦争当時、アメリカは猛烈に反動的であった。たまたまウエスティングハウス労働組合の役員チームが交流に訪れたので、ベトナム戦争に反対しないのか質問したが、彼らは共産主義を叩くのは当たり前という調子で、反対するほうがおかしいと断言した。当時も今も、反戦・平和、民主主義に危機感を抱いた学生たちが異議申し立てに立ち上がったわけだ。

 さて、大統領再選を狙うトランプは、最近のインタビュー(タイム誌)で、「中国、ロシア、その他さまざまな敵よりも、内部からの敵のほうが、わが国とってはるかに危険だ」と語った。「移民問題は、大量強制送還しか選択しがないから、そのために州兵・軍隊の動員もありだ」、「なぜなら、彼らは民間人ではなく侵略者だからだ」。さらに極めつけは、「大統領選挙に敗北すれば、騒乱が起きることを否定しない」とまで強弁する。

 なるほど、たしかにアメリカは内部が大問題だ。その意味でトランプの狂気じみた発言はまちがいではない。ただし、その元凶がトランプ自身であるという重大な欠陥を無視すれば。

 学生たちが立ち上がったのは、イスラエルによるガザ攻撃へ反対するだけではなく、国内の民主主義が分岐点にあることを肌身に感じているからだろう。だからこの運動の帰趨は、バイデンが再生される条件とも重なってみえる。

 西側は、イスラエルを全面支持の構えを崩していないが、イスラエルが建国の1949年以来、パレスチナを圧迫して、外交関係を拒否してきたことは歴史的事実である。そこに目をつむって、ハマス=テロ集団論ですべてを押し切ろうとするのは無理である。

 アメリカが、是々非々論の立場を放棄してイスラエルを担ぐことにのみ力を入れるならば、この問題だけにとどまらず、アメリカと連帯しようという国が増えるわけがない。こういう状況で、中国封じ込めに躍起になること自体が、世界を危険水域に追い込む危惧を拭い去れない。

 だからアメリカの学生運動は、世界平和に直結しているともいうべきだ。