くらす発見

頼れるものはわが脚力!

筆者 曽野緋暮子(そのひぐらし)

 自宅近くの路地沿いの生け垣に、高齢女性が腰かけてペットボトルのお茶を飲んでいた。傍らに手押し車が置いてある。よく見ると、いつも買い物に行くスーパーで時々話をする近所の女性だ。どうしたのかと声をかけると息子から免許証を返納するように言われ、自身も85歳になったので仕方がないかなあと納得して免許証を返納したそうだ。

 しかし、日々の食料の買い出しは欠かせない。隣に住む息子一家とは食べ物の好みも違うし、気ままな食生活をしているので、いまさら買い物を頼むのも気が引ける。歩くとなるといつものスーパーは遠いので少しでも近くのスーパーに行くことにしたが、いままでの50CCバイクとは違って、途中で休まないと家まで歩けないのだそうだ。

 以前、スーパーで出会っていた時はお化粧も服装もきちんとされていたが、今日の髪はちょいボサボサ気味、服装もいかにも年寄風、話し方もチャキチャキ感がない。人ってこんなに一気に変わるんだ。驚いた。

 和田秀樹氏が「高齢者は免許証を返納してはいけない。」と書いていたのを思い出した。高齢者の交通事故防止のために免許証返納は避けられないことなのかもしれないが、活動範囲を狭められた高齢者が一気に活力を失う場面を垣間見たような気がした。

 翌日、門の前で草取りをしていたら、珍しく近所の高齢女性に話しかけられた。バスの本数が一段と減り、息子家族にお願いしないとどこにも出かけられないと愚痴が出る。私達の市では運転免許証を持っていない75歳以上の人が申請すれば、1枚500円のタクシー券が年間24枚~48枚もらえる。以前は1回につき1枚しか使えなかったので必ず持ち出しがあったが、いまは2枚まで使えるので1000円の範囲で行動ができる。しかし、私達が住んでいる地域は駅まで約1400円かかるので持ち出しになる。だからなかなか出かけられない。

 それ以上に問題はタクシーが少ない。病院に行こうと思ったら前日から予約していないとタクシーが来てくれない。当日、急に病院に行こうと思っても断られる。行く時は前日予約でなんとかなるが、病院から帰宅する時はタクシーが来ないので病院の玄関先に行列になって延々と待たなければならない。身体がしんどい時に並んで待つのは本当に辛いと思う。

 高齢者の免許証返納の代替として都市部ではバスの無料パスがもらえる等対策ありきだが、ドライバー不足のタクシーチケット助成だけでは不安だ。わたしは、運転を続けるしかないかなあ。

 タクシードライバー不足の対策としてライドシェアタクシーの運用が一部で始まったが、スムーズに動いていないようだ。具体的になにをどうすれば解決するのか考えつかないが、免許証返納を考える時期が数年後に近付いている身としては切実な問題だ。マスコミも大谷選手の活躍や水原賭博問題よりこちらに注力してほしいなあ~。

 唯一の自衛策は、何歳になっても行きたい所に歩いて行ける脚力を維持することしかないか。