論 考

おカネより働き方だ

筆者 奥井禮喜(おくい・れいき)

 公立学校小中教員には、現在基本給に4%のみなし残業代が支払われている。これは1972年教員給与特措法で決められた。根拠は、66年調査で残業が8時間程度だったというのである。

 現在の教員は、45時間以上の残業が、小学校で64.5%、中学校で77.1%であり、100時間残業も少なくない。

 当局は、4%を10%に引き上げる検討をしているらしいが、いかにも安直である。教員(公務員)に労働基準法が適用されていないのであって、10%に引き上げても依然としてどんぶり勘定である。

 しかも問題の本質は、長時間労働がきついので、しっかり生徒たちに向き合えないことである。心身の疾患で倒れる教員が多いし、先生という仕事はどんどん敬遠されるだろう。

 おカネを払えば長時間労働の桎梏から抜け出せるというものではない。心身のしんどさを抱えた先生が、元気な生徒を育てられるわけがない。

 そもそも、わが国においては、労働時間に関する真剣な理解が足りない。

 かの、ワークライフバランス(WLB)が登場したときシンポジウムでわたしは、「WLBの大事なところは、仕事が人々の生活を浸食して活力を奪っているわけだから、仕事も家庭も地域社会のお付き合いもバランスよくやりましょうなどと御託を並べずとも、長時間労働をなくし、有給休暇を100%取得する社会的運動を展開するべきだ」とぶったのであるが、WLB推進派にはお気に召さなかった。

 その後、大学教授などお歴々が作ったワークライフバランス憲章なる駄文は、おそらく一顧もされずに忘れられただろう。

 遅きに過ぎるのではあるが、教員の長時間労働問題は、人を育てるという視点からすれば、ちょいちょいと予算を回して済むことではない。資源・エネルギーのないわが国としては、人こそがすべての力の根源である。

 人々が日々の生活の方向性とすべきは、Quality of Life(生活の質QOL)にある。これは1980年代に登場していたが、本気で考える人が少ないのが残念である。地球温暖化対策も、資源・エネルギー問題も、軍需産業・産軍複合体化に走る政治家・産業人も、QOLの学習から始めねばならない。