論 考

華麗なる骨休みと、大きなツケ

筆者 奥井禮喜(おくい・れいき)

 日米首脳会談後の共同記者会見で、岸田氏は、「世界の未来を守る」と気張った表現をした。抽象的な表現であるし、偽らざる気持ちの表現であるとしても、実力を考えれば実質はホラにすぎない。

 国内で、ボコボコ、けちょんけちょんにけなされて、気持ちが休まらなかっただろうから、訪米は、まさしく華麗なる骨休みである。浮かれるのも無理はないのかもしれない。

 しかし、本当は、骨休みどころではない。世界中に問題が山積しているのに対して、本気で! それをなんとかしようとすれば、くたくたの精神肉体をさら酷使して、知恵を絞らねばならない。果たして、そのような心身をすり減らす思索ができたのか。できていないと断言するしかない。

 権力の座にあるとしても、いや、そうであればなおさら、自分自身がいかに非力で矮小な存在かという事実を思い知らねばならない。傍目には岸田氏は、そのような真摯深刻な悩みと絶縁しているから、お気楽に大言壮語できるわけだ。

 アメリカに調子を合わせてリップサービスして、米国流ほめ上手のバイデン氏から、勇気ある決断などと持ち上げられているとき、少しでも、回ってくるツケについて考えたのだろうか。

 1つだけ大きな懸念・危惧を指摘する。

 自衛隊と米軍の指揮統制の枠組みの向上というが、これは、日米の対等関係が確立していることが前提である。長年にわたって、日米地位協定の問題点が指摘され、改定するべしという声は与党の中にもあるはずだ。しかし、そのような気配は全くない。

 防衛産業の連携強化も進められている。これ自体が米国の下請け化を意味することは間違いない。自衛隊・米軍の指揮統制の枠組み向上と合わせて考えると、軍事強化が先行して、日本の米国依存がさらに深まり、自主独立国家としてのプライドがますます希薄になっていくのではないか。

 いまでも、日本外交の自立性が十分だとは思いにくい。世界の未来を論じても、米国一辺倒主義で、つまりは、世界の緊張を高めることが加速する。対中国、対ロシアの関係において、そしてなによりもグローバルサウスの国々の信頼感を高めていくためには、米国一辺倒主義が大きな障害である。

 アメリカとも仲良くしつつ、世界の未来を守るためには、自主独立ニッポンの根性が不可欠である。岸田氏の采配ぶりを見ていると、深慮熟慮の兆しが見えない。日米首脳会談を政権浮揚の材料にするなどと考えているのであれば、国政はますます不安定にならざるをえない。

 美辞麗句を並べつつ、泥沼に沈んでいく姿が想像できる。