論 考

手負い?

筆者 奥井禮喜(おくい・れいき)

 内閣支持率で見ても、自民党内のバラバラ感にしても、岸田氏は四面楚歌、孤軍奮闘である。

 小泉純一郎氏は、自民党をぶっ壊すと叫んだものの壊しきれなかった。小泉氏が壊れていなかったから、とにかく少数派の自分が主流派にのし上がった。それによって自民党はマイナーチェンジをして、体制を復元した。

 孤軍奮闘ではあるが、岸田氏は自身が壊れかけている。というか、はじめから自分の政治的柱がないみたいで、そのため、答弁などはなにを言っているのかわからない。

 その場しのぎの発言ばかりで、おまけに、火の玉だの命を懸けるなどの空疎な言葉を頻発する。権力者でありながら、権力を使いこなせない。つまり首相の備えるべき資質が足りなかった。

 しかし、権力にしがみつく努力=悪あがきは、八方破れで妙にねちっこい。党内外の対抗勢力がバラバラなので、壊れかけながらも走り続ける。

 公明党山口氏が、「国民の信頼回復のトレンドが確認できるまで解散はすべきでない」と語ったのは、例によって、おっとりもっちゃりした語り口ではあるが、岸田氏の「壊れかけ力」(やけくそともいうが)が、どこへ向かうか危なくて見ていられない心情が垣間見える。

 極端にいえば、条件が整わなくても、早いうちに「やけくそ解散」に打って出る可能性は高い。いわゆる手負いのイノシシみたいで、足の向いたほうへ突進するのみだ。

 という前提に立つと、野党の構え方がいかにも気抜けしていて、イノシシの突進力に跳ね飛ばされるのではないか、心配する。

 いまの連合には、野党を結束させて爆発力を作り出す能力がない。政財官と共同で賃上げの成果があったなどと浮ついているようでは、政治戦略もなにもありはしない。

 この流れの先には、日本社会がもっと低落していく怖さがある。少なく見ても30年、経済的に大低迷し、民主党政権の悪夢を大声疾呼した安倍内閣以降の政治は、これこそ悪夢というべきで、いままさに、その渦中にある。

期待できるのは、社会をつくっている1人ひとりの自覚と先見性である。リーダーが頼りなければ、リーダーを生んだ母体がしゃっきりするしかない。