週刊RO通信

新組合員を歓迎する

NO.1555

 新しい組合員が入ってくる。昔、新組合員講座で、「みなさん、よき組合員である前に、よき会社員、よき社会人であってほしい」とあいさつした組合役員がいた。本人はご満悦だったが、感心できない。なにがよき組合員・会社員・社会人であるか知っているなら新人ではなくベテランだ。それを知らないベテラン? の挨拶は中身がない。

 たとえば、「みなさんは組合員・会社員・社会人の3つの立場になりますが、それらはいずれも、自分自身が参加して作っているコミュニティであることを忘れず、ご自身の職業生涯にふさわしい人間的成長をめざす機会・場としていただきたい」とでもいうほうがよろしい。

 新人は、新しい境遇に期待も不安も抱えている。現実的なことをいえば、賃金から組合費が引かれる。それはなぜなのか。なぜ労働組合が作られて、いかに歩んで現在地点にあり、これからどのように歩もうとするのかなど、最初に理解してもらう必要がある。ひょっとすると、組合員になって退職するまで、一度もそのような説明を聞かないかもしれない。これは困る。

 わたしは、配属された職場に職場独自の教育主任(新米のための世話役)がおられ、しかも近々組合三役に立候補するらしい職場委員でもあり、公私、労使いずれもその先輩から自然に教えられた面があった。新組合員講座が開かれると、行ってらっしゃいと声をかけられ、受講後疑問点など質問すると、わかりやすく説明してもらえた。先輩がたまたま遠隔地へ転任になり、わたしが職場委員を引き継いだ。理想的な新人教育であった。

 新組合員には、就業規則と労働協約の2つについて基本的な説明が必要である。前者は個別的労使関係を、後者は団体的労使関係にかかわる。個別的労使関係では労使対等が不十分だから、団体的労使関係としての労働協約がある。この違いを説明するのは極めて重要である。

 昔入社試験で人事担当者が、「なにか質問がありますか」と尋ねたら、受験者が、「残業しなければなりませんか?」とか、「有給休暇は取れますか?」と質問したので担当者はあきれたという話があった。受験者にすれば、どんな働き方ができるのか切実だから質問するのだが、担当者は、働かせていただくのになんたる「甘え」か、と決めつける。まさに労使非対等である。

 労働協約で、労働時間や有給休暇の取り決めがあるが、実際の職場での仕事慣行とまったく同じではない。現実に目をつぶってルールだけの説明ですませるのは不親切である。労働協約の文言と異なる労働条件で働いているとすれば、そのリーズナブルな説明をしなければならない。組合の見解を問われてもいるわけである。

 理屈をいえば、新組合員講座を開講することは、必然的に組合の現状棚卸もきちんとおこなう必要がある。それをやらないから、職場に配属された新人が、看板に偽りありじゃないかとか、組合は会社の言いなりだというような批判をして、組合離れの原因となってしまう。

 個別的労使関係の弱点を団体的労使関係がいかにして補っているか。それが理解できれば、組合員が組合の必要性を納得できる。労働協約の説明は要するに組合活動の全体としての力量を説明することでもある。

 そこから、労働三法という、団結権、団体交渉権、団体行動権についても説明したい。三法を貫く原則は、組合員1人ひとりが目的意識をもって組合活動に参加することである。かくして、組合力≧Σ組合員力が成立する。

 だから、組合員が組合費を払えば組合の庇護を受けられるのではなくて、組合員が組合費を払って組合活動に参加することによって組合というコミュニティが力を発揮する。新人への歓迎は、もちろんみなさんの不安を取り除くものであるが、さらに、あなたの力を組合で発揮してくださいという連帯の呼びかけでありたい。

 新組合員講座と書いたが、可能であれば講座形式での一方的なお話よりも、新人に参加してもらった座談会で、あれやこれや話し合うのが好ましい。新人相互の語り合いもおおいに有益であろう。これから長いお付き合いが始まる。鉄は熱いうちに打てというが、同時に新しい息吹で組織をリボーンさせるという心構えが大切である。