論 考

日銀の本務へ

筆者 奥井禮喜(おくい・れいき)

 日銀が、いわゆる異次元緩和政策をようやく転換した。黒田日銀が安倍内閣と一体で野放図な金融政策をとり、結局11年間も続いた。

 毎日新聞は本日、「異次元緩和の転換 国・企業はぬるま湯脱却を」と題する社説で、異次元緩和の検証をせよと主張した。もっともである。

 黒田日銀の政策は、安倍内閣の政策に密着、というより癒着したものであった。その本質は、経済好調を演出するという狙いである。株価が上がれば世間は経済好調だと認めて、政権が安定するという、単純な思惑が核心であった。

 手品は、アベノミクスという正体不明の新語によって飾られた。

 いわく、金融政策・財政政策・成長戦略の3本柱としたが、金融政策は国債発行残高1043兆7786億円、国の借金1286兆4520億円の惨たんたる結果を生み出した。

 安倍氏は、日銀は政府の子会社だとうそぶき、いくらでも国債発行すればよいと喋りまくった(もちろん国会の外で)。財政再建など全然頭に存在しない。

 黒田日銀は、物価2%を2年で達成すると大見え切ったが、10年の任期中ついに達成できず、国債発行大盤振る舞いの実績を積み上げたのみだ。

 また、日銀が購入した株式は時価総画71兆3000億円にも達する。上場企業の7%について、日銀は株式保有10%の大株主である。

 3月4日に東証株式は4万円に乗って大喜びする向きもあるが、日銀が株式市場を支えているという見方は否定できない。株式市場の本当の実力がどうなのか、誰でも疑問に思う。

 1ドル150円という円相場は、円安で輸出企業が潤うと喜んではいられない。国民生活の負担で輸出企業だけが儲けているという指摘は、すでに黒田日銀の1期目からあった。しかし、金融市場は株高・円安歓迎という、おめでたいスンタスである。

 場当たり主義の金融政策・財政政策が11年も続いて、政治は緊張がまったくないし、産業界も、日本経済の実力が大きく低下しているという認識がない。毎日が、ぬるま湯から出ろというのは、なかなか大変な提言である。

 中央銀行の任務は、国民生活の安定(物価)と金融システムの保全である。いずれも黒田時代にはあっけらかんと無視されていた。植田日銀の舵取りは容易ではない。膨大な負の遺産をコントロールしつつ、本来の業務へ戻さねばならない。ただし、一刀両断できるようなものではない。

 ものごとの原則や、けじめを放置すれば、社会が棄損することを忘れないようにしたい。