論 考

耄碌対錯乱

筆者 奥井禮喜(おくい・れいき)

 他国のことであり、しかも日本政府はその国の「下駄の雪」であるから、論ずる意味がないかもしれないが、わたしは、「下駄の雪」したくないから一言。

 すでに、バイデン氏は高齢で耄碌ラベルを貼られている。今度は、トランプ氏に恐ろしい錯乱というラベルが貼られた。もちろん、政治的駆け引きであるが、大統領選挙有力候補者のラベルが、耄碌と錯乱というのではたまらん。

 トランプ氏がサウスカロライナ州で(大統領在任中)、NATOの某加盟国に、軍事費を適切に負担しなければ支援せず、むしろ、ロシアが好きに振舞うように「けしかけてやる」と伝えたと演説した。聴衆は拍手喝采したのだろうか?

 NATO批判の主張自体はすでに知られているが、それをさらに面白く! するために居酒屋談義風に話したにせよ、ますますエスカレート、絶好調だ。人は誰がいうことよりも自分の言葉に操られる。

 なおかつ、独善的で嘘も平気のトランプ氏だから、政敵が錯乱というのは当然だろう。しかし、国民のみなさまはどうなるのか。

 世界を引き回してきたアメリカの方針が、たまたま大統領に就任した人物の舌先三寸、趣味でどうにでもなる。トランプという人物が民主主義などまるで考えていないことが大問題だ。

 バイデン氏は、世界を民主主義国と権威主義国に分断してきた。ご本尊が権威主義国にひっくり返る。だからといって、二大対立が解消するというわけでもない。まさか、やくざの手打ち式とはいくまい。

 錯乱の次に、世界の混乱に拍車がかかる。疑心暗鬼が募る。ただいまのリーダー諸氏において、そんな事態を快刀乱麻に片付けられるわけがない。

 ドイツのウエルト電子版によると、ドイツ政府は、ウクライナが敗戦するとさらに1,000万人の難民が出ると想定しているらしい。アメリカ政府によるウクライナ支援が不透明だからであるが、まだ、トランプ以前である。

 トランプ氏は大統領に就任すれば、直ちに米国史上最高の移民送還作戦に着手するとも語る。トランプなる人物は、世界の混乱が面白くて仕方がないらしい。

 1950年代にマッカーシー上院議員が、確たる証拠がないのに、政府機関に共産党が侵入していると騒動を起こして、アメリカ政治は一時麻痺した。数年後、騒動は突然立ち消えという感じで収束した。

 わたしは、マッカーシーとトランプに共通するものが非常に心配だ。そこには、民主主義大国の面影など微塵もないからである。

 わが政治事情に戻ると、裏金程度の問題がスパッと片付けられない。わたしは、政治家諸氏に面談して、その政治観・世界観・人間観を問いたいので、ひそやかに一人で演習しているのだが、なにしろ、岸田氏が最初にアウトなんである。うむ。これが、同時代を生きるという冷徹な事実である。