月刊ライフビジョン | 地域を生きる

隣町同士の図書館格差―どうしてこうも違うのか

薗田碩哉

 東京都町田市と多摩市は隣り合った町である。町田市の北部には多摩丘陵と呼ばれる台地が広がっているが、東西に10数キロにわたって延びる長い尾根があって、北側は多摩川の水系、南は鶴見川の水系になる。この分水嶺が両市の境界線で、北が多摩市、南が町田市というわけだ。雨水の流れは分かれるにしても、共に東京の郊外都市で、巨大な住宅団地がどちらにもあって、住民の多くは都心へ通うサラリーマンである。衆議院選挙の選挙区も今のところ町田と多摩で一区をなしている。

 2つの町を並べて比較してみれば、同じようなところも多々あるわけだが、ただ1つ、公共図書館に関しては天と地ほどの差異がある。

 多摩市では新しい中央図書館を多摩センター駅から7、8分の所に建設中で、建物は3月までにだいたい出来上がった。下記の「地域のスナップ」の写真でご覧のように、緩やかに婉曲した、総ガラス張りの建物が斜面の中腹にはめ込まれるように作られている。地上2階・地下2階、総床面積は5,400平米、図書館に加えてカフェや子ども施設や集会室なども併設される。廃校を改造して作った現・中央図書館からの図書の移動や整理を経て、開館は7月1日に予定されている。新図書館の裏手は広大な芝生広場のある中央公園、その周囲には、昔ながらの里山の緑が残されている。町の新しいシンボルとして多くの市民がオープンの日を心待ちにしている。

 対する南の町田市はどうか。人口43万人の町に図書館は8館、いちばん新しいのは小田急線鶴川駅前にできた複合施設に組み込まれた鶴川駅前図書館で、地下にはホールがあり、カフェもある便利な図書館である。そこまではよかったのだが、その後、図書館政策は反転、全部で10館までは増やしていくという長期計画は放棄され、図書館の削減作戦が始まった。まずやり玉に挙がったのが鶴川団地の商店街の一角に郵便局と並んで親しまれてきた鶴川図書館を潰すという。駅前にいいのができたのだから団地の中のは不要というのだが、団地から駅までは2㌔以上あって、簡単に歩いて行ける場所ではない。それに大団地の中にあるからこその図書館の利便性が重要である。住民有志から廃止反対の運動が巻き起こり、粘り強く続けられていることは本欄で何度も取り上げた。

 北ではすてきな新館が建設され、南では古くから親しまれてきた旧館が潰されるという対比もさることながら、両市の目のくらむばかりの違いは図書購入費に見られる。図書館は古い本をただ並べて置くだけではなく、次々と刊行される膨大な書籍群の中から、市民のニーズを勘案して計画的に本を買い続けている。新聞や雑誌の書評欄を見て読みたい本があれば、図書館に赴いて簡単にその本を手にすることができるというのが図書館のありがたいところなのだ。どこまで新刊本を入れられるかというのが図書購入費の多寡によることは言うまでもない。

 現在、多摩地域26市の図書購入費の平均額は260円である。それに対して町田市の購入費は何とわずか80円、平均の3分の1という惨状で、もちろん26市のビリである。他方で最高額は多摩市の480円、町田の6倍という充実ぶりだ。新館建設に合わせて特に増額しているのかもしれないが、山ひとつ越えたお隣りさんとのこの異様な格差はいったいどういうことだろう。これでは町田の図書館は新刊書を多く買うことはできず、市民から「読む本がない」という苦情が出てきており、図書館の入場者も減ってきた。ところが市は利用者の減少を図書館削減の理由にしようとしている。ほとんど詐欺的な政策というべきだ。

 実は町田市も2014年までは26市平均並みの図書購入費を計上していた。ところが2015年に至って突如市は購入費を半額程度に切り下げ、以後、全く改善されないまま今日に至っている。これは当時3期目の当選を果たした市長(その後も当選を続け現在は5期目)がお国の方針に寄り沿った「公共施設再編計画」(という名の施設削減計画)をぶち上げ、まずは図書館あたりから血祭りにあげよう?と始めた作戦に違いない。それにしても隣り町が図書館や芸術館(パルテノン多摩)の建設・充実に力を入れているのに対抗して、こちらはそれらを切り下げ、替わりにサッカー競技場をJ1規格にするために巨費を投じる(しかし市の応援する町田ゼルビアはJ 1どころかJ 2の真ん中あたりに低迷したままだ)のは許しがたい暴挙だと思う。

 図書購入費最低の町という衝撃的な事実は、多くの市民の怒りを呼び起こしている。文化大好きの市民はもとより、フツーの市民の皆さんもこの事実を知って「ちょっとこれは恥ずかしい」「子どもたちのためにももうちょっと何とかしたい」と言ってくれる。そこで図書館愛好市民を中心に「図書費を多摩26市の平均値を目指して増額してほしい」という請願運動が始まった。9月に予定された市議会の予算審議をめざして1万人署名を集めるべく手分けして取り組んでいる。(署名にご協力いただける方はs.sonoda@nifty.comまでご一報ください。全国どこからの署名も有効です。)


【地域のスナップ】------多摩市の新しい中央図書館---

 多摩センター駅を降りると南側の高台に「パルテノン多摩」というギリシャ風な構えの壮麗なホールが目に入る。その右手に建設中なのが新たな「多摩市中央図書館」だ。完成すれば公園の緑に埋まるような格好で、ガラス張りの明るい建物が市民を迎える。


◆ 薗田碩哉(そのだ せきや) 1943年、みなと横浜生まれ。日本レクリエーション協会で30年活動した後、女子短大で16年、余暇と遊びを教えていた。東京都町田市の里山で自然型幼児園を30年経営、現在は地域のNPOで遊びのまちづくりを推進中。NPOさんさんくらぶ理事長