月刊ライフビジョン | 地域を生きる

グローバルに考えローカルに行動する

薗田 碩哉

 新しい年の訪れが今年ほど重苦しい雰囲気で迎えられたことはかつてなかったのではないか。筆者は東京のローカル紙「東京新聞」を愛読しているが、元旦の「本年のコラム」で前川喜平さんが「正月なのにおめでたいことが何も頭に浮かんで来ない」と書いている。確かに、憲法9条を完全に放棄して隣国を先制攻撃する能力を持つための軍備の大拡大策をはじめ、ポンコツ原発の再稼働、低賃金と物価高騰を無視した不公平税制の温存、その上、「統一教会」というカルト集団に永年にわたって取り込まれてきた自民党の自己改革など到底望めない現状、あまつさえ3年目を迎えても収まらないコロナの死者だけは日々増え続けている。前川さんならずとも「ますます凶事が重なるとしか思えない」新年に違いない。

 ウクライナを侵略したプーチンのロシアは今年、どのような収束を図るつもりなのか。ごうごうたる世論の非難に抗して「ロシアの正義」を主張し続け、その挙句に核のボタンを押しかねない現状に対して我々には何ができるのだろう。今や世界は政治的にも経済的にも、あるいは多様な文化のそれぞれの領域で、深く、互いに切り離しがたく結びついている。世界の変動はあっという間に各国それぞれの地域に大きな変動をもたらさざるをない。「グローバル」な揺らぎは瞬く間に「ローカル」な生活に激震をもたらす。地球上どこにも、世界の動態と切り離された安全な逃げ場などないのだ。

 そのローカルな視点からグローバルな動きを見据え、地域の小さな実践を積み上げて、世界全体をより良い方向に変えていく波動を作り出すことはできないだろうか。よく知られた言葉として ”Think globally,act localy”―世界的に考えて地域的に行動する、というのがある。もとはソニーの盛田昭夫氏の提唱だそうで、世界的視野を持ちながら地域の商圏を広げていく経営戦略を示唆しているようだ。しかし、この発想は商売の領域を超えて、市民派の活動の指針としても、今この状況の中で改めてその具体化を考える意味があると思われる。

 今年も「地域に生きる」のコラム子として、地域に生起する様々な問題を、できるだけ幅の広い、できればグローバルな発想を援用して考えていきたい。さしあたり次のような課題が浮かんでくる。

 地域政治の視点:

 4月には統一地方選がある。多くの自治体が首長や議員を選び直す4年に一度の大切な機会だ。この機を生かして候補者の識見を「グローバルな」視点から評価してみたい。わが町の未来は、国の未来像―民主主義を守るのか、またぞろ軍国主義に突っ走るのか―に直結している。地方議会だから、自治体だから、お国の政策とは関わりありませんとは言わせない。この国をどんな国にしたいのか、隣国とどんな関係を結ぶのが適切か、世界平和の実現に地域はどう取り組むのか…これらの問いに納得できる答えを持っていない人物にわが町の運営を任せるわけにはいかない。

 地域経済の視点:

 小さな町の中では「市役所」は結構な大企業である。市行政のお金の使い方は地域経済にも大きな影響を及ぼす。もとはと言えば市民の血税なんだから、その使われ方をチェックし監視するのは市民の当然の務めである。ここで重要なのは近年とみに盛んだった民営化の功罪を見極めることである。なんでも民に投げ出せばよくなるという新自由主義は当今、見直しの時期に来ている。市民の共同財産としての「コモン」にもっと目を注ぐことが求められる。ここでいう「経済」とは、金儲けの経済ではない、市民生活の充実のためにみんなの資金をどのように使えばよいかを考えるエコノミーである。それについて世界中の自治体が取り組んでいるさまざまな施策から、われわれが学んで活用できるアイデアがたくさん見つけられるだろう。どこもみな同様の問題を抱えているのだから。

 地域社会学の視点:

 ただでさえ市民の相互交流の乏しかった日本の地域社会は、3年に及ぶコロナ禍でさらに分断が進み、絆なき社会になろうとしている。いまだに徹底している「マスク」が象徴しているように、住民同士は互いの関わり合いを最小限にすべく努力し続けている。行政と市民の間に組織されてきた町内会・自治会や子ども会から老人クラブに至る年齢階層別の中間集団は、いずれもほとんど機能を失いつつある。その再生・再編成は、ローカルに限定された活動をグローバルな方向に開いて、地域エゴのためではなく、隣り町から他の自治体、さらには隣国から世界の各国に至る市民の連帯を志向することによって進展していくのだと思われる。

 地域の文化創造の視点:

 地域にもさまざまな文化が存在している。昔から受け継がれてきた祭りのような伝統文化、スポーツから音楽、アート、文芸などに至る多彩な市民文化活動は、どこの町に行ってもそれなりの蓄積がある。文化体験というと、マスコミからスマホまでの媒体を通じて、中央の特殊な空間でプロ集団が生み出す作品を享受するという受け身のスタイルが定着しているが、地域の中で創造され、地域の人々が共有する地域文化にも目を向けたい。プロの表現者と市民の文化グループが手を取り合って新しい音楽やアートや文芸を生み出す可能性にも注目したい。それらの表現活動はローカルに創作されても、その質の高まりとともにグローバルを目指して広がり、多くの人々に享受され、楽しまれ、世界市民の連帯に一役買うはずである。

地域に生きる 2023年1月]【地域のスナップーーー多摩ニュータウンの居住区】

 東京の西郊、稲城市、多摩市、八王子市、日野市、町田市に広がる多摩ニュータウンの開発が始まって50年になる。広大な田畑や里山を切り崩し、埋め立てて造られた高層・低層の集合住宅群やショッピングセンターが立ち並ぶ近代的な街並みには、およそ20万人の人々が暮らしている。団地のかなたに広がる山並みは神奈川県の丹沢連峰。その肩越しには富士山の頂上部が顔を出している。         


◆ 薗田碩哉(そのだ せきや) 1943年、みなと横浜生まれ。日本レクリエーション協会で30年活動した後、女子短大で16年、余暇と遊びを教えていた。東京都町田市の里山で自然型幼児園を30年経営、現在は地域のNPOで遊びのまちづくりを推進中。NPOさんさんくらぶ理事長。