月刊ライフビジョン | 社労士の目から

コロナ禍と雇用調整助成金

石山浩一

 新型コロナの影響により事業縮小などを余儀なくされた場合、従業員の雇用維持を図るために事業主に雇用調整助成金(雇調金)が支給されている。緊急事態措置区域として東京都が追加されるとともに、埼玉県、千葉県、神奈川県及び大阪府においてまん延防止等重点措置を実施する期間が延長されたこと等により、8月末までとしている現在の雇調金を9月末まで継続する予定となっている。

“不支給は制度上の不備”

 今回の助成金の特例は新型コロナウイルス感染症の影響によって、来客者数の減少により経営が悪化した事業主が、雇用を守るための助成金制度である。しかし、その助成金の対象は正社員又は勤務時間が決まっている非正規社員が休業した場合に休業手当として支給される。しかし、飲食店にアルバイトして働く女性には勤務時間が決まっている期間の手当は支給されたが、シフト勤務のため勤務時間が決まっていない期間の休業手当は支給されなかった。そのため支給されなかった手当を求めて提訴を行っている。

 雇調金の申請方法は厚労省が作成したガイドブックに詳しく記載されている。その申請書は3枚のシートからなっているが、そのシートに該当する数字を入れていけば完成することができる。その記入欄は下記の通りである。

休業対象労働者
① 氏名 1日休業した日数 一日のうち一部休業した時間数 特定基礎時間の休業手当金
【合計額】            記入した全員分の合計額記入
1
2

 この記入欄は働いた時間を計算するのではなく、休業した日数や一部休業した時間から休業手当を計算できるようになっている。そのためシフト勤務のように日によって勤務時間が異なる場合は、②の休業日数から休業時間や③の1日のうち一部休業した時間数から1か月間の休業時間を求めることができない。会社としては働いた時間に応じた賃金を払うことはできるが、休業した時間が特定できないため雇調金の申請ができず、休業手当を支給しなかったようである。

 コロナによる休業が、一緒に働く人たちへの感染防止のための事業主の判断による場合は、休業手当を支給しなければならない。しかし、感染症法に基づくか、安全衛生法の就業禁止規定に該当する休業の場合は、使用者の責任は免れることになる。

 正規と非正規の不合理をなくすことは、同一労働同一賃金が労働契約法20条(現パート・有期雇用法)で定められている。シフト勤務等多様な働き方が求められている現在、今回のような勤務事例に制度を適用できるのかが問われている。更には、コロナ感染防止のための休業が何処まで事業主の判断なのか、この事件に対する裁判所の判決が注目される。


石山浩一 特定社会保険労務士。ライフビジョン学会代表。20年間に及ぶ労働組合専従の経験を生かし、経営者と従業員の橋渡しを目指す。   http://wwwc.dcns.ne.jp/~stone3/