月刊ライフビジョン | 社労士の目から

マイナンバーの利用拡大を

石山浩一

 2015年にマイナンバー制度が発足して5年が経っているが、当初目論んだほど利用されていないようである。5月に新型コロナによる自粛要請に伴う経済縮小をカバーするため、10万円が国民全員に支給された。その際、マイナンバーによる手続きの簡素化が考えられたが利用できていなかった。そうした反省から改めてマイナンバーの利用方法が検討されている。

“マイナンバーの利用状況”

 本人が使ったマイナンバー情報を管理する国の個人向けサイト「マイナポータル」のサーバー利用率が、国が想定している件数の0.02%となっている。このサーバーの利用は2018年度までに100億円超をかけて整備してきたが、さらに新しいシステムに切り替えられた。今年6月1日現在のマイナンバー発行枚数は2135万枚で16.8%となっていて、とても浸透しているとは言えない状況である。

 国は利用率を高めるためにネットワークの拡大に多額の金を使っているが思うように伸びていない。ハローワークと他の公的機関との相互利用のため約80億円使ってサーバーを整備したが、利用率の伸びが0.1%となっている。総務省が描いている利用者の伸びが過大すぎるようである。どうしたら利用率を高められるかではなく、何故高まらないかを考えてはどうだろうか。

 もし財布を落としたり、どこかに忘れたとき気になるのがクレジットカードであり、銀行のキャッシュカードである。誰かに使われないように急いでクレッジト会社に電話をし、銀行には利用できないように引出し停止の連絡をする。乗り物の定期券なども気になるがこれは金額が限定的なのでまだ諦めがつく。マイナンバー1枚にこうした心配の種がすべて含まれるのである。確かに利便性は良いが、紛失したりした時の危険性は高い。そうした不安が払拭されれば利用率は高まると思われる。IT技術は日進月歩でありマイナンバーを利用する際は、記憶してある指紋と一致する人以外は利用できないような仕組みができないのだろうか。

“マイナンバーにひもづけを”

 マイナンバー活用の議論の中で、高市総務大臣が全ての人が預貯金口座を一つにして国に登録することを義務化する考えを打ち出した。こうした「全口座のマイナンバーひもづけ」は金融機関に登録と管理を義務化する制度である。

 こうした制度は1978年の大平政権が財政赤字を憂い、「トーゴーサン」「クロヨン」と言われるような不公平な税制を是正するため、グリーンカード(少額貯蓄等利用者カード)の導入について検討を行った。これは、カード番号を用いて預貯金などの各非課税枠を名寄せし、非課税貯蓄のチック等を行うというものであり、大半の与野党の賛成により1980年に成立した。しかし、郵政省を中心に「郵便貯金が激減する」「日本人の貯蓄精神を損なう」などの巻き返しが強まり、結局廃止された。

 その後も東日本大震災で、被災者の健康保険証などや銀行カード・通帳の喪失によって預金の引出が出来ない等の医療サービスや預金引き出しに手間取ったことがあり、国民総背番号制が浮上したが実現には至らなかった。

 今回が3度目の挑戦となるが、マイナンバーの漏洩や国に預貯金を管理されるなどの声が出ている。国の管理ミス等による損害は当然国が補償すべきであり、個人の財産は税金の対象として国が把握しているはずである。預貯金の一元化によって困るのは匿名等によって、預貯金口座などの財産を持っている人である。こうした人には国民としての納税義務を果たすべくマイナンバー制への賛同を期待したい。


石山浩一
特定社会保険労務士。ライフビジョン学会代表。20年間に及ぶ労働組合専従の経験を生かし、経営者と従業員の橋渡しを目指す。   http://wwwc.dcns.ne.jp/~stone3/