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口だけが災いの元ではない

音無裕作

 かつて所属していた組織の団体交渉で、社長から女性を差別するような発言があった。雑談のような軽口だったが、会社側の議事録は修正されないまま、公開されてしまった。

 女性社員たちからさぞや怒りの声が上がるだろうと心配したが、とんだ取り越し苦労で、何の反応も起きなかった。聞いてみたところ、社長がそういう認識の人なのはわかり切ったことなので何をいまさら、といった感想のようだった。

 国会でも大臣や議員による問題発言が度々、取り上げられる。差別発言だけでなく、戦争に関する挑発的な認識や、全体主義を賛美するような発言も散見する。マスコミや野党に騒ぎ立てられると謝罪や撤回はするものの、最近では「ああ、そういう人だから」と世間からもスルーされて無罪放免、許容の範囲がずるずる広がる。失言・暴言したことは悪かったが、天下の御法度である差別意識や、危険な思想の拡散はお咎めなしという事実が固定化する。

 議院選挙前に自民党から、「『失言』や『誤解』を防ぐには」という失言防止マニュアルが内部資料として発行されたとのことである。中身はタイトル通り、「発言に気を付けよう」、「発言は『切り取られる』ことを意識する」「周囲の雰囲気に引きずられるな」「弱者や被害者がいるようなテーマは『表現』に気をつけろ」などと、あくまで野党やマスコミに攻撃ネタを与えない対処法といった感じである。

 今や民主主義の盟主であった国々のリーダーたちでさえ、差別や偏見に満ち言葉で感情を刺激し、国や社会を攪乱、分断させている。

 発言の技巧の問題ではない。自らの偏見や間違った認識に気付かず、お山の大将で居座る政治家の皆さんはきっと、長く選挙民の心に残ることだろう。