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家計プランは耐久レース

音無裕作

 伝統ある耐久レース、ル・マン24時間で、トヨタが2連覇という偉業を達成しました。

 ポルシェ、アウディーやメルセデス、そしてジャガー等の名門が参戦せず、同じトップクラスでのワークスチームはトヨタだけだったとはいえ、過酷な24時間のレースを走り切り、勝利するのは並大抵のことではありません。おめでとうございます。

 耐久レースは単に速いだけでは勝てません。24時間を2~3人交代で走り切る強靭なドライバーと、車を整備するメカニック、そしてタイヤや燃料をはじめとするチームのマネジメントが勝利の決め手となります。特に燃料の管理は悩ましく、1グラムでも軽量化したいことを考えると極端な話、毎回のピットインやゴールの瞬間はガス欠寸前! というのが、最も優れた燃料マネジメントということになります。

 人生におけるお金の計画、ライフプランも実は同じ。亡くなるときに貯蓄が底をつくというのが、当人にとっては最良の計画であるはずです。

 日本中が年金の「2000万円」問題で大騒ぎですが、議論の中身がとてもちぐはぐです。計算の中に退職金を入れたり入れなかったり、「100年安心」と「人生100年時代」を混同した議論をしていたりと、めちゃくちゃです。

 そもそもの発端となった金融審議会のレポートでは、「豊かな」老後生活の為の支出と平均的な年金収入の差額に年数をかけて出た金額が「2000万円」というだけであり、これまでの終身雇用のもとで働いてきた会社員の場合であれば、退職金・企業年金や平均的な貯蓄額で足りていた数字でしかありませんでした。

 それを、野党を始めメディアなどが「新たに2000万円用意しなければいけないというのか」と騒ぎ立て、与党もきちんと説明すればいいものを、選挙へ向けて少しでも不安を生じさせないように「なかったこと」にしようとしたことで、なおさら疑念を拡げたように見受けます。

 本来、福祉は負担と給付のバランスで成り立つものですが、日本では低負担高給付を夢見る風潮になっています。残念ながら現在の日本の年金制度では、年金収入だけで老後の生活費が全て賄えるという想定はされていません。それゆえに退職金や企業年金などの制度があることを忘れてはいけません。

 今回発端となったレポートの出所が、「金融庁」ということを考えなくてはいけません。

 おそらく金融庁としては、余裕のある富裕層に対して、ゼロ金利の中で単に預金しておくのではなく、積極的に資産運用をして欲しい、NISAをもっと活用してほしいとの願いから発せられたものではないかと思います。

 しかしこのレポートは同時に、様々な問題について考えるきっかけも作ってくれました。

 「多様な働き方」が増加する中で、十分な退職金や企業年金はおろか、厚生年金にも加入していないような働き方に、私たち一人一人はどう対処していくか。せっかくの問題提起を麻生大臣のように「なかったこと」にしてしまうのではなく、前向きに考えるきっかけにしたいものです。

 騒動が始まって以来、ネット証券には口座開設の申し込みが急増しているそうです。将来の景気リスクやインフレリスクに備え、資産運用していくためには金融や経済に関する知識も大切です。

 自動車の耐久レースにおける燃料のマネジメントは、主にピットクルーの仕事ですが、運転しているレーサーも度胸とテクニックだけで勝負しているわけではありません。一流のドライバーには、自分がどんな運転をすれば、どれだけ燃料を消費するかといった知識も資質として求められます。

 優勝したトヨタのマシンは、ハイブリッド車。わたしたちも、老後の資金について、年金と自分の資産形成とのハイブリッドで考えることが大切ではないでしょうか。