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なぜ進まぬ白い巨塔

音無祐作

 子どもの頃、プラモデルを作るのが好きでした。いろいろなものを作りましたが、なかでも楽しい記憶として残っているのが、水車小屋。完成後に引き戸は開閉できるし、水車もきちんと回る優れもの。しかも、水車の軸は室内に伸びており、杵を持ち上げては臼をつくという、凝った仕組みでした。子ども心に、プラモデルとしてのつくりだけでなく、水車小屋にみる、小川の流れを利用して、杵をつくという昔の人の創意工夫に感心したものでした。

 近年、東京湾に巨大な羽根のついた白い巨塔が増えてきました。増えたといっても、ところどころに数基あるだけですが、その巨大さゆえに、とても存在感があります。二酸化炭素も放射性廃棄物も出さずに、太陽光発電の行えない夜や曇りの日でも発電を行える風力発電は、未来を担う再生可能エネルギーの選択肢の一つとして、期待されています。

 しかし、日本ではあまり普及が進んでいません。当初、政府の補助が太陽光発電に傾斜していたことや、風力発電ゆえの問題点も普及の妨げとなっています。そのためもあり、日本で大型風車を製造するメーカーは徐々に減り、ついに最後の純国産メーカーであった日立も最近になって、撤退を決めました。風車は、一見単純な構造に見えますが、部品点数はおよそ2万点と、自動車の約3万点には及ばないものの、その裾野の広さゆえ、今後の日本の産業を担う一つの柱としても期待できていただけに、残念です。

 風力発電の問題点は、いくつかありますが、まずは風まかせゆえの電力の不安定さと発電量です。東京湾に設置されているものは1.7~2MW(メガワット)程度と、同じく東京湾周辺にある火力発電所1カ所の数千MWと較べると、1000分の1以下。1カ所の火力発電所の代わりというだけで、数千基の風車が必要ということになると、都市近郊はおろか、近隣への騒音などの問題も考えると国内の陸地には、設置場所を探すのは容易ではありません。台風や地震による故障や事故といった問題も心配されます。

 国内での十分な需要が見込めないために、大型風車を国産するメーカーが消えてしまったのですが、世界的には将来が期待されています。立地の問題については、洋上風力発電が注目されており、日本でも北九州などで建設が計画されています。発電量についても、風車の大型化や技術革新などにより、日立の最大機種であった5MWを超える、8MW以上の発電機が登場しており、さらなる革新にも期待したいところです。

 政府の計画では、2030年時点の日本の望ましい電源構成「エネルギーミックス」として、再生可能エネルギー22~24%、原子力20~22%、石炭火力26%、天然ガス火力27%、石油火力3%と、原子力や火力に依然として深く依存していく計画となっています。

 以前にも書きましたが、いくら自動車を電気で動かすことにしても、その電気を作るために化石燃料を燃やし、二酸化炭素を放出していたのでは、あまり意味がありません。事故や廃棄物のことを考えると、原子力への依存を深めるというのも、あまり賛成したくありません。そもそも、私たちは、原子力というものに世界で一番過敏にならなければいけない国民な筈です。

 風力発電の欠点には、風まかせゆえ発電が不安定という欠点は前述しましたが、日本は海に囲まれ、火山や河川も多い風土を持っています。潮汐、地熱、水力、風力、太陽、そしてバイオマスなどあらゆる自然の恵みを組み合わせ、創意工夫を進めていくことで、再生エネルギーの先進国として世界をリードできるような存在を目指すことが、日本経済の存続のためにも、必要なことではないでしょうか。