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休まない権利、休む義務

音無祐作

 古い話で恐縮だが、新入組合員を毎年、広島の原水禁世界大会に動員していたことがある。組合員教育という観点がメインではあったが、入社後4か月、有給休暇もとれるようになった新入組合員を、全国各地に散らばった同期と再会させ、各々の職場の愚痴やよもやま話に花を咲かせたり、職場によっては遠隔地である広島支部の方々との交流できたりと好評なイベントであった。

 しかし、新入社員の一人が参加を断ってきた。いわく、「自分は学生時代に皆勤賞を取ってきたことが自慢である。会社でもこれを続けていきたいので休むことはできません」。周りから「有給休暇は、そういうものではないんだよ」と説いても、一向に考えは変わらず、結局彼は不参加となった。

 こちらはこの1月。インフルエンザや風邪の感染が怖い季節に、子供が通う学校で一人の生徒が、どう見てもインフルエンザとおぼしき症状でありながら、連日登校し続けたらしい。その後クラスでは大流行! おりしも学校外の各種検定試験などいろいろなイベントが重なっていて、後から感染した子たちの中にはそれらの試験を受けられなかった子もいたりして、その子が流行の源とは断定できないものの、クラス内では大不評となっているらしい。

 かつては教育現場にしろ職場にしろ、風邪にも負けず登校・出社し、勉学や仕事に勤しむ姿を称賛する風潮があった。現代では流行性の疾患にかかったときは学校や職場に出てこないのが常識となりつつあり、そうした疾患の場合には欠席にカウントされないというケースもあると聞く。

 学校保健安全法ではインフルエンザの場合、発症した後5日を経過し、かつ、解熱した後2日(幼児にあっては3日)を経過するまで登校停止と定められているが、運用についてはあくまで本人や家族に任されているという。大人の社会でも「風邪ぐらいで休むなんてけしからん」というような上司も、残念ながら絶滅したとは言い難い。

 この国では有給休暇の取得が一向に進まず、ある調査では、世界30か国で断トツ最下位だったそうである。流行性疾患を蔓延させないことへの配慮はもちろんだが、仕事の効率アップのためにも効果的に休暇を利用して、リフレッシュすることは重要なことだと思う。もっとも、国家の未来を占う重要な話し合いを始める前からゴルフでリフレッシュするなどは、いかがなものかと思うが…

 まずは、多感な子供時代に皆勤賞をもてはやすのを止め、休みがいかに有意義であったかを称賛する活動でも始めてみてはいかがか。未来の働き方改革の第一歩ではないだろうか。