論 考

イスラエルは手詰まり

筆者 奥井禮喜(おくい・れいき)

 朝日新聞に7日パレスチナ弁護士ラジ・スラーニ氏、8日は元イスラエル諜報機関シンベト長官アミ・アヤロン氏のインタビューが掲載された。

 スラーニ氏は、イスラエルは占領によって、物資・人の移動を制御してきた。今回の攻撃だけではない。一貫してパレスチナ市民追放策を展開してきた。だからジェノサイド批判については、イスラエルの占領の罪を問わねばならない。

 さらに、イスラエルはハマスを絶滅するといいつつ、実はパレスチナ市民を集団的に殺害する意図がある、と厳しく断罪している。記事を読むと、感情を冷静に抑制されているが、絶望的な憤りである。

 とくに、「国際社会に戦闘を終わらせる意思がない」ことを追求している。イスラエルは1949年の建国以来、一貫して、パレスチナ市民を圧迫してきた。建国は、旧約聖書のエジプト脱出になぞらえて、栄光への脱出であったはずだが、そんなお話は幻の彼方だ。

 一方アヤロン氏は、イスラエルが国際社会の支持を失いつつあることを率直に認めている。

 軍事行動としての戦闘では、ハマスと一般市民の区別は判然としない。ハマスとすべてのパレスチナ市民は同一ではない。ハマスはそれを利用している。という間接的表現で、戦闘がジェノサイドの状態になっていることを認めている。

 軍隊は敵を標的として戦闘を挑むが、ハマスを叩き潰してもパレスチナ問題は解決しない。パレスチナ問題の本質は、貧困であり、少数者の権利が認められていないことであり、それらの問題解決には経済・教育・文化など包括的に取り組まねばならない。

 ネタニヤフ政権は軍事的目標のみで、政治的目標をまったく無視している。それに取り組もうとすれば連立政権が崩壊するからだ。

 その結果、いまのガザ戦闘は、戦争自体が目的化している。問題解決(政治的)とは、パレスチナ国家樹立を認め、パレスチナの市民生活が前進すること。そのための交渉をしなければならない。それこそが、イスラエルの安全保障になるという見解である。

 アヤロン氏は、平和・反戦運動に取り組んできた。目下のイスラエルでは多数派ではないが、堂々たる正論を展開している。

 国際社会なるものが、アヤロン氏の見解にすら届いていないのは、スラーニ氏の指摘の通りだ。なんとしても、バイデン政権がネタニヤフに決別も辞さぬ決意で戦闘停止を実現させてもらいたい。

 ハマスが休戦案を受け入れた。しかし、イスラエルは攻撃を止めない。ハマスの政治戦略が優れている。国際社会はますますイスラエルを見放すだろう。ハマスの政治戦略が優れていると書いたが、前述のようにイスラエルには政治戦略そのものがない。つまり、だから、ジェノサイドが狙いだとしかいえなくなる。