くらす発見

もう一度見たい映画『オッペンハイマー』

筆者 高井潔司(たかい・きよし)

 今年度のアカデミー賞を受賞した映画『オッペンハイマー』を見た。

 実はこの映画、昨年秋、中国の友人からいい作品なので、ぜひ見て下さいというメールをもらっていた。しかし、日本では長らく公開が見送られてきて、今年3月、この作品がアカデミー賞を受賞し、ようやく日本でも上映されるようになった。

 アカデミー作品と言えば、2018年に『ボヘミアンラプソディー』という映画を同じ映画館で見たが、今回は授賞直後というのに拍子抜けするほどのガラガラ状態だった。平日の雨の日だったからかも知れないが、映画好きの友人たちからも見たよという話も聞かない。マスコミでもあまり話題になっていないようだ。

 アメリカでヒットした当時、日本のネット上で、この作品が原爆開発を支持しているとか、被爆地広島、長崎の惨状が描かれていないとか、批判の声が炎上し、公開が先送りされてきたのが、響いているのかもしれない。或いは炎上に配慮して、配給元の宣伝が控えめなせいなのだろうか?

 確かに映画は、広島や長崎の惨状は描かれていない。しかし、原爆の開発者、オッペンハイマーが投下後、自身を世界の破壊者と苦悩する姿やその彼に対するアメリカ当局者の冷遇ぶりがしっかり伝わってくる。核兵器開発競争の愚を戒める映画製作者の意図もちゃんと読み取れた。

 オッペンハイマーは、長びくドイツ、日本との戦争を終結に導こうとする意図から、積極的に原爆の開発をリードしていった。しかし、現実に投下後の惨状に加え、開発競争がやむどころか次は水爆の開発競争へと展開する流れに抵抗する。そこで彼を陥れる罠が仕掛けられる。

 この映画を見て、私は自国のみを原爆被害者として、この種の映画をタブー視する日本の現状に対し、むしろアメリカの方が原爆投下とその後の開発競争の是非をきちんと議論しようという健全なところがあるさえと感じた。

 元来アメリカでは原爆投下について、日本を終戦に導いたとする肯定論が多数を占めていた。しかし、近年、核兵器開発競争をもたらしたとする批判の声が徐々に増えているという。その意味でも、ぜひ見て頂きたい作品である。

 ただ、作品は、異なる時系列の出来事が錯綜する複雑なストーリーであり、またオッペンハイマーを共産主義者として貶めようと登場する人物の設定がわれわれ日本人になじみが薄いことなどから、字幕だけでは、とてもストーリーの全体の理解は難しいと感じた。いや、むしろ一度見てわからなかったので、もう一度見て、より理解したいという思いにかられた。

 そういう感想を持つ観客が多いのか、インターネットで作品について検索してみると、そうした観客向けの、複数の詳しい解説がアップされていた。私は、そういう解説を参考にしながら、図書館で原作を借り、“原爆の父”について考えることにした。