論 考

どこまで続く泥濘ぞ!

筆者 奥井禮喜(おくい・れいき)

 裏金問題に関して、自民党が39人の処分を発表した。

 離党勧告は、塩谷立、世耕弘成の2議員、党員資格停止が3人、役職停止が17人、戒告が17人である。

 世間の評判が悪すぎて、この際、ピシッとケジメの形をつけるという意図なのだろうが、締まりがない。そもそも、これほどの大騒動を招いた自民党の総裁は岸田氏であり、自分は放免して決着しようというのだから認識が甘すぎる。

 世耕氏は離党するに関して、次のように語った。「私自身が還付の決定に関与したことはないが、幹部が政治的責任を取らない限り、事態が収拾できないのだから、(自分が)政治的責任を取るべきであると考えた。」

 どうも収まりがよろしくない。これでは、自分は悪くないが、騒動を収めるために責任を取る、という論旨である。なんとも麗しい自己犠牲の精神というべきか。なかなかレトリックは巧であるが、反省の気配もない。

 「幹部が政治的責任を取らない限り」に、岸田氏が責任を取るべきなんですよと皮肉ったつもりだろうか。そうであるにしても、自分が反省していないのだから始末が悪い。どっちもどっちである。

 こんな調子になるのは、裏金の実態が解明されないままに、幕を下ろそうとするからである。自民党としての反省ができていない。出直し、再生を何百回叫んだところで、なにも変わらないと誰もが批判するのは当然だ。

 期せずして、岸田氏は安倍派と二階派を潰したことになる。そこで、岸田リーダーシップが大いに揮えるという理屈になるのだが、岸田氏のリーダーシップなるものがまったく見えない。あえてご本人に望むリーダーシップは、可及的速やかに首相を辞任していただきたい。

 朝日新聞は解説記事で、「解散して審判を受けよ」と主張した。「解散して信を問え」といわず、審判と主張したのは上等である。クサイにおいは元から絶たねばダメだ。審判は簡単にできる。誰も自民党に投票しなければよろしい。

 閑話休題。たまたま、アメリカの国際問題研究所(CSIS)のアーミテージ・ナイ報告書が発表された。

 2020年の報告書は、「より対等な同盟」の日米関係を提唱した。今度は、「より統合された同盟に向けて」と表題がついている。主張するのは、①安全保障同盟を発展、②パートナーシップ連合を拡大、③経済・技術協力を強化する、の3点である。

 日本通、親日派のアーミテージとナイが主導した報告書であるが、「統合された同盟」というのは、対等な関係ではない。ついに、ここまで踏み込んできたのかと思う。そもそも、いままで対等ではない。

 非対等な関係において、統合するのは力を持つほうである。日本が主導権を持って統合するとは考えられない。つまり、アメリカ主導で統合するというわけだ。

 昔から、日本はアメリカの最後尾の州と揶揄されてきた。わたしは、どこの国とも友好関係を保つ主義であるが、アメリカとの友好が統合に昇華(?)するのはご免こうむる。

 現在のような政治の実態では、アーミテージ・ナイ報告書が妙に不気味な迫力を持つ。近々、岸田氏は訪米するが、まずは日米対等な関係を構築するように尽力すべきである。期待できるか!