くらす発見

いぶし銀の梅酒

筆者 奥井禮喜(おくい・れいき)

 お別れのご挨拶に梅酒を提供したら、きっと喜んでくださるに違いない。勝手に思い込んで、お隣さんに持ち掛けると、「うちに来る連中は洋酒党だからね」とやんわり断られた。

 よくパーティらしいのを開いているから、てっきり歓迎されると思っていたので、ちょっと不思議だった。

 そこで試飲を勧める。10年物をワイングラスで、くいっと一飲みした顔つきが変わった。やはり、お酒がわかるのだ。うふふ。

 最近、梅酒を作る人は少ない。市販のものはどうもおいしくない。梅酒を作っても、1年辛抱できずにまったく酸っぱいままで飲んでしまう。これでは梅酒を知らないのと同じだ。

 20余年前、群馬秋間梅園で、主人が丹精した20年物を一升瓶から注いでもらった。色は赤く透明で、味は上等なポートワインである。従来の薄識を反省した。

 以来、毎年、梅1kgに35度の焼酎1リットルと砂糖500gで漬けた梅酒を大事に保存してきた。750cc瓶で50本くらい、10年物以上は、誰が見ても梅酒とはわからない。

 当方の梅酒は、焼酎が35度で、砂糖が500gというのがポイントである。ほとんどの場合、焼酎25度で砂糖1kgなのである。これがストレートで飲むにはますますおいしくなる。

 なんといっても、年季、熟成である。半年ほどで梅を取り除き、瓶に詰めて時間を過ごした「作品」だ。

 秋間梅園では、ドイツのワイン業界の副会長がパーティに参加して、ドイツワイン小瓶が5千円するのを数本提供された。

 副会長は、梅酒を試飲して、「なんだ、これは?」と聞く。梅の実と砂糖と焼酎で作ってあると説明しても、「こんなにおいしくなるわけがない」と絶賛した。

 梅園主人だけでなく、われわれも手作り作品が誇らしかった。

 お酒博士、坂口謹一郎先生は、―お酒の価値は熟成だ。日本酒を熟成させたら、まさに世界的銘酒になる―とたびたび主張されていた。

 年季といえば、老害とつながるような風潮のなかで、わが梅酒はいぶし銀の力を発揮してくれている。と、わたしは確信している。