論 考

こっちのほうが無用の長物?

筆者 高井潔司(たかい・きよし)

 いまや無用の長物化した新聞夕刊だが、割とよく読むコラムがある。朝日新聞の中面にある「取材考記」という欄だ。記者たちがそれぞれの取材現場で考えたことや取材の舞台裏を明らかにしてくれる。ニュース原稿がいまやほとんど発表物の垂れ流しに終わっている中で、多少とも現場記者の思いが伝わってくる。

 2月1日は経済産業省担当の記者が書いていた。同省幹部を取材していたら、幹部の携帯電話にメールが入ったという。明日の大臣会見で、担当分野の質問が出るようだとの部下からのメールで、幹部はその場で、電話で回答の要点を伝え、想定問答を用意するよう指示を与えた。

 この記者によると、経産省では会見前日になると、担当職員が「ご関心は」と聞きに回ってくるそうだ。この「質問取り」は他の省庁や首相官邸、政党の会見でも常態化しつつあるという。そして最悪なのは「質問取り」に応じない記者は記者会見で指名しないようにするというのである。

 まあそういう状況は、木に竹を接いだような、原稿を読むだけの無味乾燥な記者会見や国会の質疑を見たら、十分想像できる。まったく緊張も勉強もない。本業は役人が作ったカンニングペーパーを読み、適当にやり、アルバイトのパーティ業に力を入れる。裏金を稼ぎ、各方面にばらまいて、議員、大臣のポストを守りぬこうという作戦だ。

 ここまで政治不信を招いても、野党への支持は一向に伸びる気配がない。無責任な野党に政治は任せられないとよく言われるが、官僚の作文を読むだけなら、野党にだってできそうなものだ。いや民主党政権時代、官僚の作文を読まず、ご自分の見解を自由に発表して顰蹙を買った大臣も多かったから、どっちがいいか、判断し難いところでもある。

 こうなると、新聞の夕刊よりも、この政治の構図こそ無用の長物と思いたくなる。