論 考

麻生発言は派閥の弊害の表れでもある

筆者 高井潔司(たかい・きよし)

 上川陽子外相について、「そんなに美しい人とはいわんけれども」「このおばさんやるねえと思った」と講演会で述べた麻生太郎副総裁の発言について、31日の朝日新聞社説は「女性進出阻む旧態依然」と痛烈に批判した。

 麻生氏の失言、暴言についてはもはやあきれてニュースにもならないと思っていたが、昨今、メディアに対して性差別や性暴力問題についてその生ぬるい対応批判を意識してか、社説にまで取り上げる珍しいトーンの高い批判ぶりだった。

 社説は冒頭から「外務大臣としての能力と外見とは何の関係もない。言及すること自体が女性への差別と受け取れる。極めて不適切な発言だ。麻生氏は過去にも問題発言を繰り返してきた。こうした人物を自民党の最高幹部に据え置き、注意すらできないなら、放置する岸田首相の責任が問われる」と真っ向から切り込む。

 まさに社説の指摘どおりではあるが、現実の岸田首相と麻生副総裁との力関係はもはや麻生氏の方が上。派閥解消についても、岸田派が率先解消を宣言したのに、麻生派は存続を決め込んでいる。麻生発言をめぐって、岸田首相に責任を求めるのはむりというものだ。

 それに麻生発言はもちろん、性差別問題として捉えることもできるし、その側面からも批判しなければいけないが、この発言はキングメーカー気取りで、上川外相を持上げ、ポスト岸田の人事を意識した発言ではないのか。派閥政治の弊害の表れでもある。

 麻生氏は、政治資金問題が発覚し、安倍派などが派閥解消方針を打ち出す中で、「政策集団として皆さんの期待に一層応えられるように頑張っていかねばならない」と派閥の存続を表明している。

 しかし、麻生派の政策方針とは何か、これまで聞いたこともない。政策を自分の口で述べれば、失言、暴言の類いであり、あとは官僚の作文を読むだけではなかったのか。やってきたことは、金と人事で、派閥を拡大し、権力を握ること。上川外相に対する発言もこの側面から捉える必要がある。

 麻生発言の全文はわからないが、「英語できちんと話をし、外交官の手を借りずに自分でどんどん会うべき人に予約を取っちゃう」とは、外相時代の岸田とはえらいちがいだと、言外に込めているのではないか。

 このキングメーカー気取りの発言に、岸田首相は注意どころか、コメントさえできないだろう。そして当の上川外相は「どのような声もありがたく受け止めている」と大人の対応をしているが、案外キングメーカーの言葉を感謝しているのかもしれない。

 麻生発言は派閥の弊害の表れでもある。