くらす発見

圧巻の紅葉・立山登山

筆者 曽野緋暮子(その・ひぐらし)

 --勤め人生活を卒業して、ペンネームの含意とは違って、暮らし一球入魂の大奮闘。今回は、紅葉狩りから立山登山の巻。

 10月の紅葉登山を計画した。「膝が痛くて今回はパス。」「妻の旅行に付き合うので今回はパス。」という高齢者あるあるで参加者6名と少ない。

 ドライバーも1名だ。ドライバー兼登山リーダーの負担を考えて立山雄山1座を目指し、休憩時間をたっぷり取る余裕のある日程にした。宿探しが出遅れたので立山山麓の室堂山荘が10月後半にしか取れなかった。山荘から「10月後半は積雪の可能性があるので万全な用意をしてきてください。」と連絡があった。

 酷暑が過ぎ、朝晩は冷え込んでも昼間は半袖でも汗をかくような日々だが、リーダーからアイゼンとストックに着けるスノーバスケットを用意するように言われた。友人と2人で行きつけのショップに行き、アイゼンとスノーバスケットついでに汗冷え防止の下着を購入。人生初体験のアイゼン装着を教わった。

 山でモタモタしないように自宅でアイゼンの装着、取り外しを何度か練習し、庭を歩いてみた。立山駅から室堂平まで車はNGなので荷物はザック1個にまとめなければいけない。雪山を想定して、重ね着ができるような服装、手袋、ニット帽等々ザックに出したり入れたりで数日悩んだ。

 天気予報は良くない。こちらは相変わらず暑いのに雄山山頂は氷点下で吹雪予報が出ている。山に登れなかったら山荘で雪見温泉だね。(笑)

 金曜日早朝出発。室堂平に着き山荘にチェックインする前に雪山と紅葉を堪能しながら散策した。朝とは別世界だ。

 山荘の温泉で湯船に浸かって夕暮れの雪山を眺める。まるでテレビで観た世界で最高だ! コロナ対策で改修されたのか、山荘はきれいで居心地が良い。食事も美味しい。

 土曜日は昼頃までは晴れ予報だ。冷え込むと手先が利かなくなるというK氏はお留守番。予定通り山に向かう。下山後もう1泊するので雨具等の必需品とお弁当だけを持ち出発。

 登山道に入り雪道になった所でアイゼン装着。練習していて良かった! アイゼンで雪道が楽に歩ける。風が強くて身体がふらつく。最初の目的地東一ノ越に到着。そこからは岩場の上りだ。強風と天気が荒れる昼頃までに下山しなければならない。この2条件をクリアすることが私には難易度が高いと判断し、ここで登頂組3人をT子と2人で待つことにした。

 雪を冠ったアルプスの峰々を眺め、他方紅葉の山々の先には日本海が見える。こんな素晴らしい光景をひたすら眺めていられるなんてこの上なく幸せな時間だった。でも、だんだん風が強くなり、雨雲が拡がってきた。登頂組と連絡を取り、T子と2人で一足先に下山する。慎重に雪道を下っていると、フツーの観光スタイルの若者10数人のグループに出会った。「この先その靴では危ないよ。」と注意しようとしたが、言葉が通じなかった。

 下山後、お留守番のK氏は、トロリーバスとケーブルカーを使って黒部ダム方面に紅葉観光に行くためターミナルセンターにいると言う。アイゼンだけ外し、ストックを山荘の受付に預けてザックを背負ったままターミナルセンターまで走りK氏と合流。バスに乗車後、リーダーに連絡を取り、登頂組が無事に山頂到達後下山中と聞いた。私達は紅葉観光に出かけることを伝えた。

 バスは紅葉観光のインバウンド客で満席だった。私達とスタッフはマスクをしているが、ほとんどの人はマスクなしで声高にお喋りしている。雪山から一変して見事な紅葉に圧倒された。黒部平から私達が登った東一ノ越を確認。雪景色に紅葉が映えて素晴らしい! ケーブルカーで黒部湖に向かうトンネルの中、私の頭の中では映画「黒部の太陽」が上映されていた。黒部ダムの堰堤を歩きながら一級建築士でもあるK氏の解説を聞き、先人の偉大さを思い起こしていると雨が降り出した。黒部ダムの中心地点から急いで引き返した。

 観光シーズンなので乗り物は臨時便が出ていてスムーズに帰れた。バスが室堂平に着くと強風の吹雪だった。ザックカバーをしてカッパと手袋で寒さ対策をして山荘まで歩くが、周りがガスっていてグレーの世界だ。足元の看板を見落とさないように注意して進んだ。山の天気の変わりやすさを実感した。

 夕食時は雄山登頂組と紅葉観光組でスマホ写真を見せ合いながら盛り上がった。その間も雪が深々と降っていたようで翌朝は銀世界だった。新雪にアイゼンは無効とのことでザックを背負い慎重に足を運びターミナルセンターに着いた。除雪作業のため始発バスが40分遅れとなったので土産ウオッチング。

 2日しか経っていないのに雪景色となったバス道の紅葉が一気に進んでいた。しかし、帰途につくとダウンジャケットはもちろん、薄手の防寒着も不要になった。日本は本当に広いなあ。

 本物の雪山、紅葉に圧倒され、黒部ダムに感動し、濃密で思い出深い3日間が終わった。T子と来年の夏には雄山と大汝山登頂を誓い合った。

*立山 富山県南東部、北アルプスに連なる連峰。立山三連峰は、主峰雄山(おやま)標高3002m、大汝山(おおなんじやま)3015m、富士ノ折立2999m

*黒部ダム 富山県立山町を流れる黒部川に建設した水力発電ダム。1956年着工、1963年完成。高さ186m、幅492m、東京ドームの160杯分の貯水。関西電力が、当時の資本金の5倍513億円、世界銀行融資3700万ドルで建設。黒部発電所の総出力337,000KW。