月刊ライフビジョン | ビジネスフロント

飾りで終わってほしいもの

音無祐作

 先月、自動車に関する博物館や展示スペースを3件訪れました。そのうちの1件は、とにかく実動させることをメインに考えられており、機関もレストアされ、一部はナンバーもついており、可動状態を維持するために、定期的に走行もさせているとのことでした。来訪者も、観るだけでなく、レーシングカーも含め、展示車両の全てに座ることが可能です。

 2件目の博物館では、レーシングカーや歴史的な名車とともに、割と古くない市販車が展示されていました。スポーツドライビング好きなら、一度は運転してみたいスーパーカーや、街でもたまに見かけるような身近なネオクラシックカーなどは、訪れた人間が運転してみたいと思うのみならず、車自体も走りたくてウズウズしているように見えてしまうのは、マニアゆえの気のせいでしょうか。

 こちらは、8月1か月のみの開館ということなので、オフシーズンには、展示場から出して、走らせたりしているのかもしれません。なににせよ、走るために生まれてきた機械たちです。古い車ゆえ、排気ガスなど、環境的に問題は多々ありますが、飾られるだけでは寂しがっていそうな気がします。

 もう1件、訪れたのは、サーキット「富士スピードウェイ」の一角にあるミュージアムでした。レーシングカーや歴史的な名車の展示が中心なので、隣がサーキットとはいえ、動かしている個体は僅かではないかと思われます。

 そのミュージアムを出て、駐車場に歩いていると、突然地響きのような重低音が響き渡りました。すぐに富士裾野の自衛隊演習場での砲撃音だとわかりました。暑い中、重装備で大変な思いをされながら、演習を行っている隊員さんたちには失礼かもしれませんが、殺傷能力のある兵器の発する音だとわかると、あまり気持ちのいいものではありません。

 武器や兵器というものも、定期的な演習などを行い、使用方法や性能の確認を行わなければならないことは理解しますが、乗用車やレーシングカーと異なり、できれば、「飾り」のままでいて欲しいマシンのひとつです。

 武器や兵器を飾りで終わらせるためには、まずは政治による、平和維持のための話し合いが第一の筈です。

 政治家の仕事は、国民を飢えさせないことと、戦争をしないことだと、名優、菅原文太さんがおっしゃっていすしたが、その通りだと思います。同盟を組んだ仲間同士で集まって、力を誇示するような近年の政治は、かつて学んだ昭和の戦争前の状況とそっくりなような気さえします。

 ロシアによるウクライナ侵攻以来、「戦争になったらどうする」という議論が、先行しがちに見えますが、本当に大事なのは、戦争をしないで、国交を続けることでしょう。

 自分の視点ばかりで主張し、戦争の準備をするばかりでなく、相手の思想や立場も多角的に慮り、どうすれば、平和的なお付き合いを続けられるか、考え続けたいものです。