論 考

アイゼンハワーの警鐘

 1961年1月17日、大統領退任を3日後に控えたアイゼンハワー(1890~1969)が離任演説をおこなった。

 後々まで注目されたのは、彼が軍産複合体による影響力の獲得を排除せねばならないと語ったことだ。

 以前、平常時にアメリカは常備軍を持たなかったが、第二次世界大戦後には巨大な軍隊が作られた。そして軍事産業には300万人が働いていた。1969年には、政府の軍事支出が国民の10%以上の人々の生活を支えていた。

 軍と産業の巨大な組織が、国家の動きに影響力を発揮しないわけがない。いまや、軍事ケインズ主義がアメリカ経済を支えている。

 アイゼンハワーは、「国家相互の尊重と信頼による軍備縮小は、継続する緊急の課題です。あわせて私たちは意見の相違を武力ではなく、知性と慎み深い意志をもって調停する方法を学ばねばなりません」と語ったが、残念ながら、その後のアメリカはひたすら軍事大国の道を歩み、力の政治の権化となった。

 1991年   12月にソビエト連邦が解体した際、ワルシャワ条約機構も解体した。NATOも解体するべきであった。しかし、アメリカは、アメリカ一極支配をめざして走り続けた。しかも、それを未来永劫維持できるし、そうあらねばならないと確信している。

 プーチンの戦争が開始してしまったいま、世界のざっと半分は、アメリカの覇権主義に対してほとんど問題意識をもっていないように見えるが、アイゼンハワーの警鐘を無視して、平和外交の努力を怠ったことが招いた戦争だという側面を忘れないほうがよろしい。