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本気ですか? オリンピック

音無祐作

 誘致前は東京でオリンピックを行うことに反対でした。新型コロナ・ウイルスの流行で延期となって、昨年の秋ごろの陰鬱な空気を払しょくする意味で、21年の夏までにコロナを克服して東京オリンピックを開催することができたら素晴らしいだろうなと考えたりもしました。

 しかし、現在の状況はどうでしょう。3月下旬の時点で、日本国内では感染の終息はおろか、増加傾向すら見受けられます。頼みとなりそうなワクチンも7月までには、年配の方の分だけでも間に合うかどうかという状況で「克服」とは程遠い気がします。

 世界各国でも、ワクチン接種はごく一部の恵まれた国と地域でしか進んでおらず、選手・関係者全員に事前にワクチン接種してもらうというのさえ、難しそうに思います。

 開催するか否かの基本議論はすっかり鳴りを潜め、いつの間にか聖火リレーが福島から華々しくスタートしました。いまだふるさとにも帰れず、避難を続けている方々のことを思うと、何をもって「復興」五輪なのか、疑問を禁じえません。

 誘致の時点では、「東京は過去に開催した都市なので、お金がかからない」と謳っていたにもかかわらず、ほとんどの施設は新しく建て直しており、結局は多額の資金を費やしました。

 先日、晴海ふ頭に行く機会がありました。以前は広い範囲を見渡せる眺めの良い景色が、今は完成した無人の高層住宅街が、不気味な雰囲気を漂わせていました。これだけの設備を作る資金やマンパワーを被災地の復興へまわせていればと、ついつい考えてしまいます。

 テニスの全豪オープンでは、移動中に見つかった感染者と同じ便に乗っていたプレイヤーたちがホテル内で待機という事態となり、まともに練習できずに大会に臨むことになりました。このままオリンピックを開催しても、海外選手たちは大会直前の調整練習を制限された環境でしか戦えないでしょう。

 国内の観客を入れるかは、この稿を執筆時点では決まっていませんが、海外選手にとって完全アウェー、まともな練習環境もない状況で「日本がメダルを○個取りましたりました」といっても、空しい気もします。選手にとってもあまり喜ばしくないのではないでしょうか。

 1984年ロサンゼルス大会以来、商業オリンピックなどと揶揄されますが、誘致から開催決行までの動きは、経済効果最優先としか感じられません。

 経済を動かさなければ、困る方々が大勢いらっしゃるという事情はありますが、ワクチン普及前に感染爆発を誘発するような段取りでは、まさにジリ貧を避けんとしてドカ貧を招く事態にもなりかねないでしょう。

 渋沢栄一氏は「論語と算盤」の中で、「人が世の中に処していくのには、形勢を観望して気長に時期の到来を待つということも、決して忘れてはならぬ心がけである」と語っています。

 そもそも、東京オリンピックは1940年にアジア初として開催されるはずでしたが、日本も一方の当事国であった日中戦争(支那事変)の勃発で辞退することとなり、24年後に晴れて開催されたという経緯がありました。いっそ今回も諦めて、23年くらい後に「東日本オリンピック」として、本当に復興を成し遂げた日本の雄姿を世界にお披露目できたら、良いのではないでしょうか。

 その誘致の際には、東京にはオリンピック関係の休眠施設がたくさんあるので今度こそ、「お金はあまりかかりません」と、嘘のないアピールできるのではないでしょうか。