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銚子電鉄から地方再生を考える

渡邊隆之

 筆者の周辺では飲食店や個人商店の閉店ラッシュが続いている。知らないうちに更地が点在するようになる中で、あるYoutube動画に勇気づけられている。そのタイトルは「銚子電鉄 激辛ちゃんねる」。厳しい鉄道事業の経営に直面しながらも、社長の竹本勝紀氏のユーモラスな会話とユニークなアイデアで経営再建に立ち向かうサイトである。普段見られない鉄道会社の内部や職員の人柄にも触れられ、ほっこりした気持ちになる。

 同社は現在、鉄道事業の赤字の3分の2を国・県・市の補助金で補填し、菓子・物品販売の利益で黒字をめざしている。2021年3月度の最終決算は3,965万円の赤字で、前年度より約2,000万円が膨らんだ。鉄道事業は新型コロナ感染拡大に伴う2回の緊急事態宣言で大打撃を受けたが、副業の「ぬれ煎餅」「まずい棒」を柱とする菓子・物品のネット販売の売上が前年比10倍の1億円と好調で、今後の売上推移が楽しみな状況にある。売上比率は鉄道事業25:食品事業75なのだという。

 鉄道事業は線路の保全・改修、車両の検査など多額のメンテナンス費用がかかる。銚子市の人口減少にも歯止めがかからない。年間輸送人員は最盛期である1950年代の170万人超から5分の1程度まで落ち込んでいる。鉄道事業から撤退し利益のとれる食品事業に特化したほうがよいのではとの意見もあるなかで、竹本氏は「今はまだその時ではない」と断言する。

 鉄道が寂れると街が寂れ、街が衰退すると鉄道も衰退する。鉄道と街は一体なのだという。乗客は観光客が8割だが、地元の学生が通学で利用したり免許返納した高齢者が使用し、交通弱者である地域住民の足を守る使命がある。大正12年の創業以来98年だが、鉄道を存続させることで地域住民に恩返しがしたい。また、銚子電鉄×〇〇の「かける事業」で、地域資源のブランド化、地域の広告塔、地域の情報発信基地として地域住民に利益を還元できるのだと熱く語る。

 今回のコロナ禍でも地元の観光業に大打撃だったが、同社は取引のある土産物業者から商品を買い取り、地場産品のネット販売も行っている。苦しい時は助け合って苦境を乗り切る、の精神である。

 同社は第三セクター(半官半民)ではない。民間会社なので、公的な補助を受けていても、利益を上げることは優先課題なのである。だから、現状は副業の売上・利益の方が多いが、なりふり構わず利益を上げて鉄道を存続させ、地域に利益還元する方法を模索する。

 銚子電鉄は車窓から海も見えず、鉄橋もトンネルもない。走行距離が6.4㎞と短く片道20分ほどなので、社内で飲食を楽しめるような観光列車ではない。しかし、これら観光列車として不利な点は、「お化け屋敷電車」などイベント列車の運行等で克服する。日本一のエンタメ鉄道を目指してマーケティング分析とイベント訴求に余念がない。

 「売れるものはなんでも売ってお金に変える」が会社のモットーで、最近は好調の食品事業もレパートリーを増やすほか、「線路の石の缶詰(商品名は「石に願いを」)」「カットレール(線路をスライスしたもの)」「栓抜き(線路の犬釘を加工して作成)」などもネット販売している。さらには、各駅に愛称をつける権利(ネーミングライツ)も販売して資金を稼ぐなど、まさに「方法は無限にある」を体現している。

 Youtube動画では「鉄道なのに自転車操業」とおどけて見せる竹本社長の本業は税理士で、会社再建に向けて顧問税理士となり、2012年に代表取締役社長となった。営業・広告担当でもあり、電車の運転免許まで取得して運転する、実はすごい人物なのである。

 税務・財務の専門知識と人脈を駆使しつつ、顧問先会社の倒産危機を何度も回避してきているが、筆者がそれ以上に感心するのは職員や地域住民、会社に関わる人々を大事にしていること、周囲からの意見を真摯に傾聴できることである。事業は信用と人のつながりを基礎に共感力と一体感を生み、個々の人々の所作の化学反応で大きな事業へと発展する。

 「今だけ、金だけ、自分だけ」の考えが国内外ではびこり、コロナ禍で人の分断・格差の拡大が進む昨今だが、心と暮らしの安定を保ち、地方再生に何が必要なのか、銚子電鉄はそのヒントを与えてくれているように筆者は感じている。