論 考

愛国者より憂国者が大切だ

 イギリスの政治は、EU離脱問題で振り回されて大混迷だ。

 喫緊の政治的駆け引きはともかくとして、政治指導者が大局観を持ち合わせていないか、あるいは、何かの事情で道を誤ったのが諸悪の根源である。

 諸悪の根源を直接引っ張り出したのは、メイ首相の前任のキャメロン首相である。氏が、EU離脱の国民投票をやると発表したとき、EU首脳は「自滅」だという意味を込めた指摘をした。

 表面的解釈をすれば、EUからイギリスが抜けることはEUにとって大損失であり、結束を乱す要因だから、EU首脳がそのように厳しい指摘をしたともみられるが、それがイギリス自身のことを指摘していると考えれば、まさしくその通りである。

 イギリスに反EU派が多数存在することはすでにわかっていた。しかし、それは極めて古い伝統的思想であり、7つの海を席捲した時代の遺物である。伝統的思想というものは、何かの拍子に忽然と浮かび上がる。それが国民投票に現れたのだ。

 もちろん、現実と未来にどう立ち向かうかを考えている人々が少なくないから、移民問題というわかりやすいEU離脱派の扇動的宣伝には与せず、残留に票を投じたのである。

 離脱派が51.89%得票し、残留派が48.11%%得票した。理屈では、51対49でも多数決は多数決であるが、国論が真二つに割れるというのは、要するに論議未成熟だということである。逆にいえば、論議未成熟なものを採決するのは時期尚早である。

 愛国者を気取っているが、実は、自分の権力保持のためにバカをやったとしか評価できないだろう。どこの国でも、愛国者を気取る連中は少なくない。しかし、本当に大切なのは「憂国者」なのである。

 わが国も他人事ではない。