論 考

税回避対策という政府の思考

筆者 渡邊隆之(わたなべ・たかゆき)

 ――11月7日の朝日新聞3面の見出しには、「大企業が1億円以下に減資『中小化』」とある。大企業が資本金を1億円以下に減らすことで、税制上の「中小企業」になるケースが相次いでいるそうだ。2019年度は715社だったところ2022年度には1235社になっているとのことである。

 これについて、総務省の有識者検討会は11月6日、課税対象企業を広げる新たな基準案を公表した。減資により税負担を軽くする「税逃れ」を防ぐ狙いだというが、経済界の反発も強い。

 今回問題となっているのは、企業が都道府県に納める法人事業税である。資本金が1億円を超える大企業には「外形標準課税」方式が適用される。企業の規模を示す「外形」に課税するものなので、赤字でも納税しなければならない。

 コロナ禍で業績に大打撃を受けた企業も多い。また、その後もインボイス制度や電子帳簿保存法への対応、DXやGXへの対応、働き方改革と給与引き上げへの対応等、難題に短期間で取り組まなければいけない。とするならば、経営者としては使えるお金を手元に増やすための「資本金の減少」という選択も経営手法としては合点がいく。

 しかし、総務省の有識者検討会は、税収確保のため、外形標準課税の適用基準を従来の「資本金1億円超」に加え「資本金と資本剰余金の合計額」で判断する新たな基準を設けることを提案したのである。

 確かに政府や自治体の公共サービスを維持するために一定の財源を確保したいとの気持ちはわからないでもない。しかし、ただ財源を一定程度確保したいということに終始し、それから先のこの国や地域のあり方について思考停止していないだろうか。

 数年前にわが家に定期購読のお願いで毎日新聞販売店の方が来られた。ご存じの通り、毎日新聞社も資本金を減少し、いまでは中小企業となっている。国民の知る権利に奉仕する重要な媒体組織である新聞社でさえ苦しんでいる。

 もちろん、企業努力の面で十分かという指摘もある。ネットで情報収集も可能だからである。市井の人々の所得も上がらず可処分所得が減り続ければ生命に直結しない新聞購読を止める人も増えるであろう。

 しかし、紙の新聞は普段気に留めない記事にも目を通すことができ思考の客観性が保てる。また、記者が名前を入れて記事を書いているので、ネット情報に比べ信憑性の面でまだ優れていると思う。

 企業には、資本金額を下げて体裁を度外視してでも事業活動を継続し、使命を果たす必要がある場合だってある。

 この法人事業税に限らず、政府や財務省等は税収の確保にやっきになっているが、その税が将来的にこの国のどのようなビジョンの下、何に使われるのか、また今まで何に使われてきたのか、キャッシュフローについてしっかりとトレースできているのだろうか。また、政府やメディアは透明性を確保したうえで国民に周知できているのだろうか。

 政府与党・自民党の党是は憲法改正だそうだが、その核心部分はアメリカの属国ではなく自律的に判断できる国家にするということではなかったのか。戦後78年経過するも、費用対効果も解らずにアメリカ政府の言い値で武器等を購入していたのでは、いくら稼いでも財源が追いつくわけがない。

 おまけに、フランス視察の実効性や官房機密費の使われ方、自民党主要派閥のパーティー券収入での裏金疑惑、神田財務副大臣の税金滞納など足元の火消しで時間を浪費し、この国の将来について十分検討されているのか、はなはだ疑問である。

 財務省には優秀な人材が集まっているのだから、ただ金をかき集めることばかりに執着するのではなく、それを元手にあるいは減税により国が収益を産む方法についても研究を重ねていただきたい。理由をつけて税収を上げることは簡単だが、利益を積み上げることは困難であり、この部分にこそ、その優秀な頭脳を使っていただきたい。

 「税回避」防止という表現に筆者は違和感がある。

 むしろ、国内企業が衰退しているから、国内での産業の活性化、産業の空洞化防止のために国や自治体がどう支援するかという点に焦点を当てるべきではないか。インボイス導入時の「益税」同様、「税回避」というレッテル貼りで多くの事業者が廃業し、社会インフラがこれ以上損なわれないよう関係部署の方々には対処していただきたい。

~ 追 記 ~

 総務省は11月29日に開かれた自民党税制調査会の会合で、外形標準課税の適用基準を従来の「資本金1億円超」に加え「資本金と資本剰余金の合計額50億円超」とする案を示した。

 総務省は、新たに対象となる中小企業は1500社で約272万社の0.1%にすぎず、「50億円超」との基準は東証プライム市場の上場基準の一つである純資産額50億円以上より厳しい基準だと説明する。

 しかし、新基準が導入されれば、将来金額が下げられ対象が拡大するのではと懸念する反対意見も出ている。