論 考

スルーしたくなる年中行事

筆者 小川秀人(おがわ・ひでと)

 ――労働組合の組織率は最低を記録したが、組織率の低下と、それに対する言い訳の巧妙が反比例している。巧妙な言い訳つくりに熱を入れるよりも、活動の怠慢を反省するべきだ。

 この季節がやってきた。師走は、厚生労働省から労働組合基礎調査の結果が発表される時季でもある。直近は16.5%と過去最低だが、年々労働団体(運動家)の言い訳が殊に巧妙になってきた。“労働市場への参入者(分母)が増えたので組織率は下がったが組合員数は増えた”とか、“コロナ禍で組織化活動が難しかった”とか—へそで茶を沸かすとはこのことである。

 これが、たまたま18%だったとしても大同小異、50歩100歩の話。何のことはない、こちら側の怠慢が数字に表れているだけのことである。

 同調査の組織率が30%を超えていた最後の年は1982年で、そこからちょうど40年。自戒を込めて、同調査のデータを元にその体たらくぶりを検証してみたい。

 表は1982年と2022年のそれぞれ、労働組合数、組合員数、雇用者数、組織率であり、その40期間を複利(1年平均の増減)で算出している。

           労働組合数  組合員数  雇用者数  組織率

 1982年  34,477    12,525,529  4,102   30.5%

  2022年  23,046        9,992,373    6,048      16.5%

 40年複利 -1.00%       -0.56%       0.98%    -1.52%         

 この40年で、雇用者数は毎年0.98%ずつ増えているが、組合員数は毎年0.56%ずつ減少している。労働組合数に至っては、毎年1%ずつ減少しており、日本の職場から労働組合が消滅しつつあることが分かる。

 これを10年区切りの4期間に分けて計算してみると、2002年から2012年にかけての労働組合数が毎年1.56%の減少でもっとも落ち込みが激しく、次に2012年から2022年が毎年1.11%の減少と、いずれも40期間複利の減少幅を上回っている。

 つまり、減少が加速しているのである。ナショナルセンターを名乗る日本労働組合総連合会(以下、連合)の結成が1989年。これは何たる皮肉だろうか。結成時の800万人連合から、1000万人連合を目指そう! というかつての勢いは見られない。直近では700万人を切ってしまったようだ。

 ちなみにバブル経済前夜からの10年間、1982年から1992年にかけては労働組合員数が毎年0.01%の増加、労働組合数が毎年0.42%の減少で組織率が6.1ポイント落ちている。この間、雇用者数が1000万人増と飛躍的に増えているので、バブル経済に伴う雇用者数の増加(分母)に組織化が追いついていない、という言い訳が立つのはこの辺りまでか。

 「1000万人連合を目指そう!」は、他人事のように軽々しく口にしてはいけない言葉ではなかったのか。一方で私は、昼夜を問わず夜討ち朝駆けで、ひたすら地道に靴底を減らして全国を飛び回っているオルガナイザーの姿をごく間近で見ている。

 すでに1981年には、本論壇を主宰される奥井先生が『労働組合が倒産する』という著書を残されているが、彼らの奮闘によりギリギリ徳俵に足がかかった状態で持ちこたえていると言える。

 アメリカは、会社が自主的に結成を承認しないかぎり。従業員の3割以上から署名を集めて全国労働関係委員会(NLRB)に提出し、投票の実施を申請した上で認められれば、NLRB管理のもとで従業員投票を行ない、投票者の過半数の賛成を得る必要がある。

 また中国、ベトナムはというと、社会主義国家の労働組合は国の機関の一部であり労働組合の性格がまったく異なる。翻って日本は、世界的にもっとも労働組合を作りやすい国の一つである。結成だけなら労働者が2名集まれば良いし、何が不足しているというのか。労働組合のすべての運動や活動は組織があってのことである。

 労働組合は組織化がすべての始まりである。