週刊RO通信

パレスチナの怨念

NO.1535

 ハマスがガザに作ったトンネル網は想像を絶する規模・機能、そしてなによりも怨念の深さを物語る。10年ほど前にガザからイスラエルへの越境トンネルが発見されたが、全長1.6キロメートル、最大深さは18メートルに及んだ。いまは、縦横無尽にトンネル網が走っているという。

 研究者によると、トンネル内は湿気が強く、暗く、狭苦しい。冷える、さらに空気も少ない。中へ入ると方向感覚も時間感覚もなくなる。無線も携帯も通じないが、ハマス戦闘員はトンネルを自由自在に移動し、連絡も十分に取られる。武器庫、指揮統制拠点も地下にある。

 イスラエル軍の標的の1つがトンネル網の破壊にあるのは疑いない。しかし、人質がトンネルにいると考えられるので、なにがなんでもトンネル網を破壊するわけにはいかない。トンネルを捜索するためにもガザを包囲する必要がある。そのために地上の人々を無差別に攻撃しているのではないか。

 トンネルは両者の戦力差を均一にする機能があるという。ハマスに対するイスラエルの軍事力は圧倒的な強さであるが、トンネルが機能する限り、イスラエルの攻撃が思い通りにならない。イスラエルが地上部隊によってガザを包囲するのは大きな狙いはトンネル破壊であり、トンネル破壊こそがハマス壊滅への道筋だという戦術になる。

 トンネルを縦横無尽に走らせるには、想像を絶する時間と人的・物的資源が投入されただろう。地下掘削も最新鋭の機械が潤沢にあるわけがない。

 1948年のイスラエル建国は、パレスチナの人々にとっては、ナクバ(大災厄)であった。数十万人が難民となった。ガザ市民はナクバの難民である。彼らは非常に貧しい境遇にあり、8割が貧困層だという。パレスチナの人々の積もり積もった怨念がトンネル掘りに重なってみえる。トンネルを考えてもハマスが単なるテロ集団でないことがわかる。

 「憎悪と対立の連鎖を絶て」(朝日社説11/4)というのはもっともな気持ちである。しかし、当事者がそのような道徳的感情を呼び覚まされる可能性はほとんどないと思われる。とくに、パレスチナの人々は、狭い地域に押し込められ、イスラエルの入植によって圧迫されてきた。

 パレスチナの人々は、40キロメートル×10キロメートルの狭い土地に230万人が閉じ込められている。イスラエルによって自治はほとんどなきに等しい。自分の土地でも建築許可が下りない。違法建築だとして破壊される。土地は没収される。命の綱の水利権も奪われている。しかも、人々は自由に移動できない。天井なき牢獄だから、脱走のためにトンネルを掘る。

 入植地においては、イスラエル側がパレスチナの人々に日常的に嫌がらせをし、暴行を加える。2016年12月23日、イスラエルの入植活動は国際法違反だから中止せよという国連安保理決議がなされたが、イスラエルは完全に無視して入植活動を続けている。

 なるほど、ハマスの急襲は衝撃を与えた。しかし、イスラエルが75年にわたって、陰湿に、執拗に、差別意識を隠すこともなくパレスチナの人々に加えてきた異様な集団虐待の歴史を忘れることはできない。

 イスラエルはもとより欧米はイスラエルの自衛権を掲げているが、歴史的集団虐待を自衛権であると言い張っても説得力はない。また、国の自衛権は国家同士の問題である。反政府活動やテロリストは非国家主体である。

 ハマスをテロリストと規定するなら、ハマスかどうかわからないガザ市民を無差別に攻撃するのはまったく妥当性なき悪行だ。しかも、この数日のジャハリ難民キャンプへの攻撃や、シファ病院への攻撃などは、隠れていたハマスをやっつけたと抗弁しても、間に合わせ取り繕いにしかみえない。

 30年前のオスロ合意・2国家存立の時点へ戻るしかない。それを推進するために、イスラエル最大の支援者たるアメリカがまず行動しなければならない。緊急に停戦させねばならない。

 ――こんなことは、格別高邁な理論でもなんでもない。人道を語るならば、世界のリーダー諸氏は人道を踏まえた思索と行動を率先して発揮せねばならい。パレスチナは、耐えがたい人権侵害に対して反発・抗議しているのである。これに目をつぶるなら反人道的罪悪に加担することである。