論 考

岸田安保論の矛盾

 安全保障政策の論議が選挙風で決定的に中身なしの、かけ声合戦になっている。もちろん、参議院議員選挙で一気に決定するものではないが、軽薄で無責任な気風が高まっては困る。

 反撃力や抑止力論議が出るのは、東アジアの情勢が不安定に見られているからだが、東アジア情勢を不安定にしているのは他国ばかりではない。わが国自身が、他国からはきわめて不穏当に見える。

 安全保障のような微妙な問題は、彼我の軍事力関係も、お互いが遭遇している政治・経済関係も、よほど慎重に分析検討しなければならない。自分の、いわば趣味で相手国を規定すると、とんでもない失敗を招く。

 目下は軍事力増強ばかりが話題だ。外交がどんどんお留守になる。しかも、以前からわが国は近隣各国との外交が実質停止している。そのような状況で軍事力増強論が幅を利かすことは、近隣各国との関係をさらに離反させる。

 岸田氏は外相経験が売りの1つだが、最近の発言からは大局観や外交観がほとんど見えない。軍事力増強論は、対米従属をさらに進めるし、日本独自の外交力は相対的に下降する。

 このままでは、中国は日本を格下と見て対等の国とは認めない。安全保障を推進するためには、まず、日中関係改善を具体化せねばならない。安全保障を唱えつつ、危険を高めている矛盾に気づかねばならない。