論 考

岸田首相所信表明演説の感想

 新聞論調では、岸田カラーが出ていないと主張するが、これが現時点における岸田カラーである。安倍・菅一派との力関係からして、こんなものだ。

 「新しい資本主義」に新味も熱意も感じられないとの指摘もある。これは、とっくにわかっていたことだ。気持ちとして安倍流・新自由主義を変えたいというのであって、そもそも新しい資本主義の構想を持っているわけがない。先月のオンラインジャーナル月刊ライフビジョン論壇で、「大風呂敷の『新しい資本主義』」と題して主張している通りである。

 日本人は、そもそも明治近代化以来、外発的に変化してきただけで、そのパトス的火事場の馬鹿力が発揮されたのは、明治維新からの30年間と、敗戦後の30年間だけだ。いわば、戦後1970年ころまでの遺産を食いつぶしてきている。これ、1政治家の所信表明どころの話ではない。

 コロナ対策で、外国からの入国をシャットアウトする件は、それなりに岸田カラーである。ただし、「責任はわたし」というハッタリは賛成できない。政治的行動に関して、失敗すれば辞任程度はできるが、発生したことについての責任は絶対に取られない。

 昨年からのコロナ対策を徹底的に検証する――というのは、必ずやるのであれば上等である。わたしは昨年以来、たびたび経過の検証をやって、その時点の科学的知見を公開せよと主張してきた。これに限らず、政府与党は政策の検証をまったくやらない。反省がないから、政策を改良できないわけだ。岸田内閣が今回検証を本当にやるなら、少なからぬ意義がある。

 米国主導の対中国包囲網などについては、このままずんずん進めば、一触即発の危険性が高い。米軍の下請け整備にばかり熱を上げるのではなく、国際情勢を歴史的にどう見ているのか、いまの路線でいいのか、本質的な見解を聞きたい。

 これを野党が本気で質す力量があるかどうか疑問だが、平和外交の本音が語られなければ、日本外交はまったく主体性がない。