論 考

バイデンチームの仕事に期待

 慣例破りはトランプ流で、いまさら驚くことはない。幼児的わがままだから、負けた悔しい気持ちを抑えられないのもわかる。しかし、大統領が選挙自体の信頼性を貶めるのは、先進国の話ではないし、「デモクラシーのリーダー」とはいえない。総括すべき1つの視点だ。

 1950年から54年まで吹き荒れたマッカーシー旋風で分かったことは、米国人は「そそのかし」(煽動)に弱いということであった。そんなことはないと思うが、もしも、トランプ氏が国内での騒擾を期待しているとすれば、それは本当にアメリカを分裂させかねない。ここにきて、トランプ氏のような人物を大統領に選んだことが、いかにアメリカ国民にとって深い傷を与えたか、外からはよく見える。

 1941年12月8日(米国7日)、日本軍の真珠湾攻撃で太平洋戦争が開始した。それ以前、日本軍が南部仏印へ進駐を強行した2週間後に、ローズベルト米大統領とチャーチル英首相が大西洋上で会談し、8月12日に「大西洋憲章」を発表した。

 「大西洋憲章」の要旨は、――領土不拡大、すべての国民が政治形態を自由に選択する権利の尊重、世界市場における諸国民の平等権保障、すべての国民の居住の安全・人類を恐怖と欠乏から解放するための平和確立・航海航行の自由、侵略国の武装排除――などで、歴史的には反ファシズム連合が出発した。

 当時、米国はまだ第二次世界大戦に参戦していなかったが、真珠湾攻撃で米国内での反戦の声が一挙に沈黙した。以後米国の動きは早かった。すでに十分に戦略戦術が練られていたのである。日本は、用意周到に待ち構えている網にかかったといえる。

 大統領選挙から戦争の話を想起したのは、いままで報道されていなかったが、バイデン氏は先を見越して慎重に計画を立てている。すでに何カ月も前から政権移行の準備を進めていた。政権移行チームは数百人のスタッフから構成されて、目下、大車輪で活動している。

 トランプ氏が大統領就任した後、人事が行き当たりばったりで、チーム・トランプは結局、初めからお終いまでまとまりを欠いた。盛んに米国民の分断が指摘されるが、バイデン氏がデモクラシーについて確たる見識を掲げており、丁寧に仕事を進めるならば、米国政治の立ち直りは早いかもしれない。