論 考

簡潔とは、無思考にさも似たり

 アメリカ大統領選挙は、争点の中心がコロナ対策であると、バイデン氏優位が固かった。しかし、治安問題が争点として大きくなるとトランプ氏優位に傾斜するという見方がある。

 そもそも治安悪化を招いたのはトランプ氏の自業自得であるから、トランプ氏優位とつながるという分析は奇妙な感じがする。なぜか?

 バイデン氏は穏健派であるから、差別撤廃論よりも国内融和論を掲げる。そのために、治安悪化が差別にありとして抗議している人々の要求とは完全に合致せず、むしろ、民主党内部の亀裂が拡大すると予測するわけだ。

 なおかつ、自分の意志を歯切れよく簡潔に表現できなければ、嘘でも何でも歯に衣着せぬトランプ氏に吹き飛ばされる可能性があるという。

 これは、アメリカのことだけではない。わが国でも、以前から「早く結論を言え」という単細胞的即決主義の気風が無視できない。「これこれ、こういうわけだから、かくあらねばならない」という思考を経ずして、なんとなく! わかったような気がするワンフレーズに飛びつくのは無知蒙昧の見本である。

 安倍政治継承、時間的余裕がない――といえば、直ぐに飛びつく。継承するにふさわしい政治をしたか? 時間的余裕がないというが、野党が国会開催の要求をしたのに一顧だにせず、サボタージュを決め込んできたではないか。容易に議論の場すら設けないような政府与党の姿勢は民主主義のそれではない。

 新首相が選出されて報道機関の意識調査がおこなわれ、支持率50%を超えれば、自民党は、それがご祝儀相場であり、期待であって、本来の信任とは質が異なるということなどはまったく念頭にない。

 結論を急ぐ! ——真剣真剣・真摯な政治をさせるには、新首相選出直後の支持率調査で、低い支持率が出るほどよろしい。この理由は、言葉を尽くさずとも、どなたさまもお分かりだと思う。