論 考

人は人に対して狼である

 T・ホッブス(1588~1679)は、『リヴァイアサン』(1651)で有名である。彼の思想は、人間を現実的に合理的に考えようと努力した結果である。

 もっとも有名なのは、人間は自然状態では、自己保存を第一に欲するから「万人が万人に対する戦い」にある。そして、「人は人に対して狼である」とまで表現した。しかし、自然状態では誰もがお互いに自己保存に具合が悪いことに気づき、契約法によって社会を作った――と展開する。

 ホッブスは、自然状態における人間の野蛮性を指摘しつつ、そこから脱して社会を作った意義を唱えた。その中で、賢明な人々が必然的に道徳的になることに着目したのである。

 最近の企業におけるコミュニケーションの劣化や、ハラスメントが日常的に話題になる事情は、まるでホッブスの万人敵対説を地で行くかのようだ。各人が自分の生き残りに必死になっている結果だとしたら、組織力は減退の一途を辿る。1990年代からの成果主義の発想が、こと志と反して組織を内部から破壊している。

 経営者がかかる事情に頓着していないのであれば、とりわけ組合は、その危険性について大いに主張して、改めさせなければならない。