月刊ライフビジョン | LifeVisionSociety

公務員と会社員・働き方の類似と相違を考えた

ライフビジョン学会

ライフビジョン学会総会2018公開学習会

2018年7月14日(土) 13:00~17:00

国立オリンピック記念青少年総合センター


  安倍政権下で、日本の官僚制度に異変が起きている。個人で戦うか団体で戦うか。サラリーマンの生き残りの武器は何か。ライフビジョン学会では2018年7月14日、組織の不条理に個人的対策で抗しながら働き続けた公務員・司高志氏の体験を基に話し合いを行いました。(OnLineJournalライフビジョン8月号続き) コーディネータはライフビジョン・奥井禮喜。

理不尽な働き方…それで君はなぜ辞めないのか?

 司 民主党時代の東日本大震災で、われわれ公務員は泊まり込みで対策に奔走していたのに、民主党政権は全公務員の給料を8%カットしました。8%とは10万円とか、それぐらいの数字だから内心穏やかではない。自民党が上手いと思うのは、減ったのが分かるかわからないぐらいの額で止めるところにあります。

 奥井 東日本の時は出すものは出そうとの風潮があったのは確かだし、今も西日本の水害で、公務員の給料を減らせの声は出ているから、民主党政権だけを非難するのはかわいそうではある。あの時は一般国民も千円の特別税に特段の反対はなく、みなが同意した。しかしそれが終わったら今度は森林特別税とか、自民党は汚い。

 Koさん 自民党は上手いんですよ。ゼロ金利のときも、国民は自分の金が減っていると気付かないように減らしている。

 奥井 公務員の働き方は、厳密には人事院がサポートすることになっています。

 日本の官僚機構についてアメリカは、戦前の内務官僚が好き放題して特異な体質を作ったと見ていた。1948年にGHQが人事院を作ったとき、官僚機構の人事を内務官僚には絶対にさせないよう、人事院でマネジメントもしようとした。しかし1952年講和条約を結んで独立復帰した直後から一気に、人事院は官僚によって力を抜かれていく。公務員の働き方は労基法取り締まり対象外だから何をやっても良いのではなく、官僚が勝手にやっているのです。

 それで司さん、そんなひどい働き方なのに、なんで辞めなかったの?。(笑い)

 司 探したけど次の仕事が見つからないんです。公務員は転職しても使い物にならないとの、国民の皆さんのイメージが大きいのではないですか。

 キャリアとノンキャリアの間にも雲泥の差がありますよ。キャリアのモチベーションは皆高くて、同期で一人しかなれなくても全員事務次官狙いです。

 Koさん …その…やっぱ、なぜ辞めないのかと思うね。働き方がこんなにきつくて。

 司 本省の私の知人にも辞めたい人が多いが、次の仕事が見つからなくて辞められない。

 奥井 地方都市の公務員は経済的には断トツに優位だ。やはり居心地がいいんだろうね。

官僚世界には官尊民卑が残っている

 奥井 上級中級下級の官僚の話だが、なぜ中級下級官僚がスーパーエリートの上級官僚に黙って仕えるのですか。上級試験を受かって一家言持っている上司がいても、実際の現場の専門性は中級から下級が持っている。上級職には専門性はないにもかかわらず、皆が黙々と上に付き合っている。不思議です。

 Koさん 『役人になる』ということにわれわれ日本人は、建前上国の任官を取ったこととか、『特別な何か』の存在を感じる。私の世代では一番成績の良いのはエリート産業に入りたいと思い、できないやつが官界に行く、というのがなんとなくありましたが。

 奥井 やはりそう、この切り口が一つあるね。

 Itさん 1950年生まれの私の世代もちょうど高度成長期のタイミングにあたり、役所に就職するなんてとんでもない、民間に行く、という雰囲気がありました。

 奥井 それは中級下級クラスの話だね。上級官僚を目指す人は昔から本当に、優秀なのだ。

 私の田舎の工業高校では皆上級を目指していて、役所に行くのは『残り者』だった。だけど上級官僚は皆の目に見えない。そこにはやはり暗黙の官尊民卑、「官とはお上」という認識があるんでしょうね。

メンバーシップばかりの職場運営

 奥井 ところで司くんたちはなぜ、あんな馬鹿な上役に従っているのか。彼らを偉いと思っているの?

 司 …あぁ、上司だからですよ。

 奥井 上司だからとはいえ、君が書類を作らなければ彼らは自力で何もできないことは知っているのだろう?

 司 うーん…、あぁぁ(それが不思議なんですよねぇ)。うーむ。(笑い)

 奥井 これがわかると皆がなぜ、オウムに騙されたかがわかるのだけどね。

 司 うーん、最初に詰める(仕事で他所から突っ込まれないようにするために、いろいろと反対側への回答をシミュレーションする作業)時に、仕事の仕方も一緒に移植されるのでしょうね。

 奥井 無意識のうちにメンバーシップばかりの職場になっている、それはわかります。

 Koさん 日本は封建時代が長かったから、ぎりぎりの線まで踏み込まれているのではないでしようかね。こんなエリート官僚が、というような報道もある。

 奥井 実際に実務を知っていて役所を回しているリーダーは、(キャリアの)課長補佐クラスなのだろう。事務次官には手は届かないが上の人たちが『次官ヅラ』できるように、いわゆる内助の功をやっている。家の中で実力の無いお父さんを立てるお母さんのように、遺漏無きよう尽くしてやって、自分の手柄をひっそり自慢している、との気風ができているのではと想像する

 Itさん 民間会社ですが、あるとき、課長が一挙に増えたことがありました。それまであった『課長になるための基準』がなくなり、その数年後には景気が悪くなって、残業代節約目的の課長がドンと増えた。給料が下がる、おかしいじゃないか、今までのは何だったのかと、モラルが崩壊しかかった。しかし官僚の世界はそうではなくて、今までもそれがきちんと守られているというのでしょうか。

 奥井 いや、上級官僚は積み上げてきたのではなく尾根歩きしているから、そこが違うようだ。私は司さんの話は中級から下級官僚の話として聞いていた。

 Kさん 民間の企業というのは日本が中進国から先進国になるときに、その点、進化があったのか。日本はずっと官僚組織の国なので、バランスしてきているのではないかと。

 Itさん こつこつやっていれば少しずつ、必ず先につながるというのが役所の働き方だとしたら、民間はこつこつの努力が時の情勢でガクッと無に帰したりする。

 奥井 労働条件問題ではその通りだが、古手の事務次官経験者は、「最近はおかしい」という。最近の不祥事は「内助の功グループ」と「上級官僚グループ」に隙間ができて、上手くいかなくなっている気がする。

 今回のモリカケ、忖度などは上級が命令し、中級下級の「手下」が実行したと見てよいだろう。われわれが外から見てきた官僚体制が変わりつつある気がする。

 Isさん 新聞などではその原因が、本来は次官が次の人を育てるものを、内閣人事局が関係のない人を引っ張ってくる。それで組織の中をおかしくしていると書いている。

政治家と官僚、確執の歴史

 司 官邸には、われわれの人事権を握っているから気を使います。

 奥井 あれは民主党が作った仕組みだが、当の民主党が使い切れなかった。

 Isさん 選挙区も、マイナンバーも、5年ルールも民主党時代に作った制度です。目的は違うはずなのに上手く使われているね。

 奥井 政治家と官僚、両者の緊張関係は明治以降、強くありました。

 戦前は政治家より天皇の藩屏(帝室を守護する)である官僚のほうが上だった。戦前の政党の歴史では、政治家は官僚体制に切り込もうとした。その最先端・最大が軍部であった。戦後はそれをひっくり返したはずだが、官僚制度は戦前のまま残った。

 戦後日本経済が好況の頃は、政治家より官僚の評価が高かった。民主党政権の政治改革10項目の中で、省庁を監督すべく100人の政務次官を送り込んだり副大臣を置いたりしたが、失敗に終わった。小沢一郎の発想は、政治改革を妨げているのは官僚だというものだった。また国民にも、感情的に官僚叩きをするという風潮がある。

 大事なのは、官僚が国民ではなく官邸を向いて仕事をするようになったことです。安倍の今日は民主党のあの時期にあった。あそこが分かれ道で、こんなおかしなことが起こるようになった。

 Okさん 昔の大蔵や厚生事務次官は、自分は総理よりえらいと思っていたのだろうか。

 奥井 そうです。人事院の1948年12月03日、ブレインフーバーというGHQの法務課長が、悪名高い内閣官僚を廃すと公言し、日本の官僚制の中に切り込もうとして、人事院では旧内務官僚はみな、ボイコットされた。ところが52年に日本はアメリカから施政権を取り戻し、旧内務官僚が元に戻ってきて、内閣府に人事権が移ってしまった。政治家は議会権力で法律を決めるが、実際の法律を書くのは官僚で、執行するのも官僚だ。事務次官のポジションは大臣より上なのだ。

全体の奉仕者は国家主義

 奥井 日本の官僚は憲法15条で「全体の奉仕者」ということになっているが、上級官僚の持っている考え方は、民主主義ではなく、戦前の国家主義だ。

 前川喜平さんが著書『面従腹背』の中で、公務員の意識の流れの中に、個人から発想する人と国家から発想する人がいる、と書いている。日本の憲法は民主主義だから個人の基本的人権から発想しなければならないのだが、そうなっていない。つまり憲法違反である。自民党は基本的人権を否定している。前川さんは国民の公僕だと思ってやってきた数少ない一人なのでしょう。

 大方の上級官僚の中身は民主主義の官僚になっているか、疑問ありと言っている。だから中・下級の官僚のところで民主主義的なマネジメントが行われるのか。国家主義とはもともと違うところにもってきて、マネジメントが民主的になれるはずがない。

 日本の人事管理の始まりは人事院である。能率協会も産能大も、民間企業のマネジメントは人事院から広げていった。しかしマネジメント教育は公務員には無いだろう。民間企業もないと思う。

 では職場のマネジメントを誰が責任を持ってやっているのか。分からない。

 Koさん 会社にとっては正しいか正しくないかではなくて、利益を生み出し続けないと市場から淘汰される。それが民間の軸である。

価値のない法律、意味のない規制が増える

 奥井 今の話で、公務員はわれわれ民間人と違うと思ったことはありませんか?

 Koさん うちと一緒。デカい組織は一緒だなと思ったね。(笑い)

 Itさん うちの会社も研修が終わってから仕事に戻る。必ず残業になる。改革していかないと。

 司 私たち役人の残業については、次の日に国会で質問する問いの通告時間を遅らせて

役人を困らせるのが野党の作戦なのです。

 奥井 大臣の答弁も、大臣が細かいところまで知っていることはない。「担当局長から答弁させます」との迷答弁があったが、それで良しとしてしまったのではまた、政治家が勉強しなくなる。残業時間の長短は置いておくにしても、官僚独特の問題である。

 もう一つ、官僚答弁の中身について、『責任を取らなくて良いような表現をする』という話が前提ならば、国会審議とは何か。いまの安倍の答弁はまさにそれで、平気で何回でも、同じ答弁を繰り返す。質問に答えない。野党の攻め方の問題ではない。日本語の文体はそもそも、はっきり結論を言わない。それをかなり上手に(みえみえではあるが)使っている。

 文科省は、教育基本法を変えた。何とか初期のスピリッツが残っているから変え方が良かったのだが、今度の労基法改正はひどい。

 Itさん 法律を作る立場からいくと、ちょっとした穴でもだめなのだろう。突っ込まれない文言、読んでも意味がすぐに分からないぐらいの文を作る。民間ではそこまでの文章は作らない。

 Okさん 本日の資料に「教育しないことをOJTという」とある。仕事から学べ、というのでは効率が悪い。実はこれ、民間も何もしていない。官僚機構であることは、民間も変わらない。

 Wさん この通りだとしたら、組織としては効率が悪いですね。

 司 むちゃくちゃ悪いですよ。

 奥井 労働時間問題ではもともと、従来の労働基準法に罰則があるものを、36協定で効かないようにしていたのであり、立派なことではない。ということからすると、働き方改革法案では各論でなく、もっと法律論をすべきであった。上級官僚段階でやれば哲学論争になるのに、各論でやるから官僚の中下級のレベルで嵌ってしまう。

 なぜあんなに揚げ足取りを気にするかといえば、法律の価値がないからだ。意味がないからそれを糊塗するために、突っ込まれないようにと細部にこだわる。法律が増えるほど、細部にわたればわたるほど、その国は衰退化していく。昔からの鉄則だ。

 Osさん 企業も一緒ですよ。コンプライアンスなど、企業を衰退させるための、意味のない回答集問答集が増えていく。総務などでは株主対策で一年中、問答集回答集にとりかかっている。(笑い)

 Siさん そう、法務課も同じ。畑違いの私がコンプライアンスの教育をやらされても、僕らも知らない。一つ言えることは、会社のトップが自分で身をもって、コンプライアンスが大事だということをやらないとダメなんです。大まかにやって大体が同じような仕事ができることですが、枝葉末節まで書くようになったのは組織が官僚化しているのです。司さんの話は、私の会社の中で起こっているのと同じだと思って聞いていました。

マネジメントに代わる横の関係づくりを

 奥井 どこの会社に行っても、マネジメントがないと聞く。トップが「言うことを聞いてくれない」とも。ファミマの社長が女子のスーパーバイザーを増やそう、女性社員の意見を社長が聞こう、聞いた中から社長が実現する、との新聞記事があった。

 トップが言ったらできることも、実際にやるのは皆なのだから、マネジメントがないなら仲間を糾合して、働いている人ファーストとすればよい。と考えると司さん、職場の、横の関係は良いのですか。

 司 悪くは無いです。

 奥井 縦社会できちんと何かしようとすれば、横のつながりしかない。下の連中、中の連中と話をするしかない。

 Itさん 昨年一カ月間、介護休暇を取りました。設計部門5人のうち一人が抜けたのですが、休暇後に出社するとぎりぎりで動いていて、もう少し休んでいたらどうしようもなかった。互いの役割、仕事中身も分かるし、私の職場は横のつながりができていたと確認できた。長期休暇を取得してみるのもよいと思った。

 奥井 トップダウンをやめても動くのですね。とすれば、やらなくてよいことをやっているのか。ヨーロッパで長期休暇が取れるのに、日本ではなぜできないのか。

働く現場で起きていること2018

 〇 日本の会社は、「あなたに何をさせる」かをきっちり言わない、最初から決まっていない。会社はどんな仕事でもやらせてしまう。何をやっているかわからない人が休むと会社の仕事は止まる。

 〇 仕事のさせ方について大手企業が何か策を講じているのか、何もしていない。専門職はいいかもしれないが、それ以外では「なんでも屋」さんになっている。

 〇 部下を仕事面から分析して配置する、能力を把握して投入する、そんな作業は必要だといわれつつ、方法論がわからない。一人ひとりの職の能力。把握の方法論が無いのでそういう作業はあまりやらない。職務ごとに職務契約が出来ない。グレーな仕事をするのがホワイトだ、線引きできない仕事を皆でやるのがチームワークだ、という考えで進んでいる。

 〇 一般職は専門化細分化が進み、ホワイトで上に行くほど何をすればよいかわからない。

 〇 ブルーカラーが企業の中心を占めていたときにはjob分析、管理はできていた。70年代からホワイトが増えた。ホワイトの人事管理が必要だと言っていたができていない。

 〇 事務、管理系の生産性を図る尺度を持ち合わせていない。能力を把握する尺度が事務系には無い。

 〇 会社は無駄なことが多くて、儲からないことまでやっている。経営と単純に結びつかない。全ての会社がそれを止めれば、景気もよくなることだろう。

***

 Osさん ところで司さん、何を楽しみに仕事をしているんですか。(笑い)

 司 私は複雑な錯綜した問題を解いたり、人のやらない発想することが好きです。仕事上の難題などをパズルを解くように解決するのが楽しみです。政策で国を良くしようと思ったことはあまり無いですね。

 Oさん 勤め人として提言するとしたら?

 司 仕事で成長できればそれはたいへん良いことです。しかし、人生を全うするための手段の一つが仕事ですから、仕事に人生を殺されないようにしないといけません。それは、職場ごとで違うと思います。良い論文を書いてキャリアに妬まれて、その後、いい仕事が回ってこなくなった人がいました。平社員が本を書くと組織にいられなくなるといわれるように、注目度が高いと命を落とします。自分のいる組織に適合した生き残り策は持つべきです。

 余談ですが、選挙では、官僚は自民党に投票します。どこの党が政権のとき、自分の仕事がラクか。民主党に変わってほしくない。前の民主党があまりに、悪かった。野党の方々に申し上げたいのは、公務員を痛めつける策略ばかりでなく、味方につけた方が得だと思います。

 Q 公務員をやってよかったですか。

 司 ほぼ後悔です。過去に戻れたらもうしない。さて何をやるか。親が、ホームヘルパー3級取っておけばという。(笑い)福祉が似合うかもしれない。(拍手)


【参考】日本では情報公開のやり方が、制度を利用しにくいように作ってあり、必要な文書が何という名称の文書なのか、それはどこにあるのか、かなり、分からないようにしてある。自分の担当はわかるが、隣の課に何があるか、分からないようになっている。役所はわざと面倒な書類で情報公開書類を出させるなど、情報公開には不親切だ。したがって報道などにはその道のプロがいないと難しい。米国は一定期限後に全部公開する。日本にはそれが無い。
【参考】日本における上級官僚とは、国家公務員試験(Ⅰ種あるいは総合職)に合格し、各中央省庁に本省採用された国家公務員のこと。「キャリア」などとも呼ばれる。キャリアは一般の職員(Ⅱ種やⅢ種、一般職に合格した国家公務員)より早いスピードで出世し、各省庁の審議官や局長、事務次官といった上位ポストを独占する。