週刊RO通信

シリア情勢とアメリカの動き

NO.1246

 13日、米英仏がミサイルでシリアを攻撃した。トランプは壊すだけだ。

 昨年4月7日、アメリカは地中海展開中の駆逐艦2隻からトマホーク59発で、シリア首都ダマスカスの北東150kmに位置するシャイラト空軍基地を攻撃した。トランプ・習近平夕食会の最中であった。

 アメリカは事前にロシア軍に通告、シリアが化学兵器を使用したことと国連安保理決議を無視したことを理由とした。同11日、ティラーソン国務長官がロシアのラヴロフ外相と会談する日程の直前であった。

 ロシアは、23発着弾したが効果が極めて低いとコメントし、シリア大統領アサドは「愚かで無責任、政治的・軍事的無知、テロリストに誤ったメッセージを送った」と声明したが、ロシアもシリアも冷静を保った。

 アメリカ国内の反応は、外交主流派は「世界の警察官」復活期待で悦び、トランプ支持者は「イスラムのカタストロフィに関わるのか」と失望した。トランプ周辺は支持率に好感という分析をしたようであった。

 その後大きな衝突事態に至らず、ティラーソン訪ロも予定通り。7月7日にはトランプ・プーチン会談で、「シリア南西部停戦」(米ロ+ヨルダン)に合意し、同9日正午から停戦が発効した。妙に蜜月的会談の印象だった。

 10月17日に、シリア民主軍SDF(米軍が支援)がラッカを1Sから解放して、ISは事実上崩壊した。ISはイラクとの国境へ逃げ込んだ。2014年以来、3年ぶりにISを排除したのであった。

 11月初めティラーソンが中東歴訪して対イラン結束を呼びかけたが、さしたる成果はない。一方、同22日、プーチン・エルドアン(トルコ)・ロウハニ(イラン)の3者会談がロシアのソチで開催され、シリア正常化協力で一致した。トランプが就任以来、明確な戦略のないままに、中東をかき回した結果、勢力圏が明確になった。トルコとイランは「敵の敵は味方」論でロシアとの提携を押し出す。中東におけるアメリカの権威失墜である。

 12月11日、プーチンはシリア軍事介入終了宣言を発した。シリア北西部のラタキアにある空軍基地と西部タルトスの海軍基地は、ロシアが無期限に使用できる協定が結ばれている。

 シリア情勢はその後比較的静穏が続いていたのであるが、再び、シリアの化学兵器使用を巡って険悪な形勢になった。表面に押し出されているのは化学兵器問題だが、トランプは自分の支持率向上に使うつもりではないか。

 トランプにとって最大の問題は支持率である。なんといってもモラー特別検察官率いるチームのロシア疑惑捜査が気持ち悪い。モラーは地道な捜査を積み上げて、ひたひたとトランプタワーに迫っている。

 モラー特別捜査官の任免権者であるローゼンスタイン司法副長官を解任し、後任者に因果を含めてモラー斬りをやらそうという作戦だろう。ただし、これは確実に大勝負である。トランプ弾劾運動が巻き起こるかもしれない。そこでその有効な対策としてシリア攻撃を目論むという見方を捨てきれない。

 アメリカ人にとって戦争とはいかなるものか? たとえば、かつての戦争は国民の徴兵を意味したが、いまや戦争はビジネスだ。戦争を請け負う民間軍事警備会社PMSC(Private Military and Security Company)がある。

 その社員(契約兵士)の仕事は警備・戦闘業務、兵站・整備・訓練など、兵士と変わらない。顧客は「国」だ。アフガニスタンでは米兵9.9万人に対して契約兵士9万人いたそうだ。彼らは戦死しても公式な戦死者ではない。

 戦争が忌避されるのは国民が死ぬからだ。ビジネスが徴兵を代用し、無人機やミサイルで攻撃をする。湾岸戦争当時、アメリカのミサイルが発射されるのをテレビで見て、まるでテレビゲームだと語った人は少なくなかった。

 表面的には戦闘の悲惨さがわからない。だから戦争に対する批判・抵抗が起こりにくい。逆に、「悪玉をやっつけた」みたいな宣伝をされると、国民は拍手喝采するなんてことにもなりかねない。やったのは大悪玉であるが。

 大統領には開戦決定権はない。議会が握っている。権力を握れば人は狂いやすい。ましてトランプは自分以外が全て敵だ。戦争がビジネス化されるような豊かな国の大統領がトランプだ。火薬庫中東が大惨禍に陥る危険性が高い。世界の警察官ではない。これでは暴力団的出入りと変わらない。