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石の上にも22年

塩田昭男

 石の上にも三年という諺がありますが、私の「石」は「書道への取り組み」のことです。

 きっかけは小学四年生のころ。母から「お寺の住職が習字を教えているので行きなさい」と薦められ、そこで初めて筆を持ち、半紙に四文字の漢詩の一部を書いたことを記憶しています。しかしその習字は一年でやめました。少年野球を始め、習字どころではなくなってしまったからです。

 二回目の機会は会社の友人からの誘いでした。「書道をやらないか」。その頃の私は労働組合で非専従中央執行委員の仕事をしていたので、時間がないからとお断りしました。その後、中央執行委員の三役となり専従になり、書道との縁はますます遠退きました。

 49歳の時、労組役員を退任し職場復帰すると、先の友人が「書道をやろうよ」と訪ねてきました。以前から書道をしたいと思っていたので入会しました。ちなみに私が所属する書道会は500人くらいの、関東圏では中堅どころです。

 友人に連れられて書道塾へ行き、わが書道会の役員で今は亡き熊谷先生にお目にかかると、先生は開口一番、「半紙を書いて一年くらいで辞めるならば、やらないほうがよい」。答えて私は、「それでは“石の上にも三年”はやります」。と先生は「石の上にも十年だ」と、出だしから厳しい一言をいただいたものでした。

 先生は塾のたびに、「中国の隋・唐時代の高名な書家の経本を一冊ずつ全臨しなさい。」「見栄えのするところだけ拾って書くのはよくない。」と言われました。全臨とは一冊の教本をすべて書くことで、そうしないとその教本のいわんとしているものが把握できない、その書体の特徴をしっかりと掴めない、というものでした。

 今年の夏、わが組織の展覧会が開催され、私は七言二句の漢詩を太宋(唐代の皇帝、書家)タッチで書きこみ提出しました。その作品が評価されてこの度、師範から特別師範に昇格しました。半紙の習字から始めて、熊谷先生の教えをこつこつ守って「石の上にも」22年目のことでした。人様に自慢できるほどのものではありませんが、「継続は力なり、好きこそものの上手なれ」を実感した次第であります。

 書道は、心が落ち着きます。筆に墨を含ませ大紙に向かうと邪念が取り払われ、一気に書き進むことができます。邪念があると筆は進みません。ぜひ皆さんも筆に墨をつけ、自分の好きな字を書いてみてください。心が落ち着きますよ。

ライフビジョン学会会員 塩田昭男