論 考

政局に埋没するのか

筆者 奥井禮喜(おくい・れいき)

 さきの衆議院議員選挙で自民党が少数与党になったので、政治の景色はだいぶ変わった。過半数割った与党自民党を軸として政治が動いてきたが、少し前までのような与党独断専行でなくなった。これは国民にとっては大きな前進だ。

 ところで目立ったのは、与野党間取引である。予算委員会審議を聞いても議論がかみ合って、与野党それぞれの見解が修正され、さらなる高い次元に押し上げられたというようなことはない。

 答弁がていねいだといっても、表面的な言葉遣いの話で、質問者の疑問に真正面から応じて答弁し、双方が納得するという場面は見られない。

 与党安定多数で政局が安定しているよりも、少数化し政局不安定になるほうがよい政治につながる。というのが筆者の考え方である。その視点から、この間の議論はどうだったか。

 与党の独断専行がなくなったのは事実だが、目立ったのは「取引」ばかりである。単純にいえば、客とお店の「もうちょっとまかりませんか」「これが最大限のサービスです」というやり取りによく似ている。まけろ・まかりませんの繰り返しにしか見えない。

 政局緊張に期待するのは、「取引」活発化ではなくて、議論の質の向上である。

 なぜ、「取引」活発化ではだめなのか。まけろ・まかりませんの取引だけでは議論の質の向上がない。

 さらにいえば、与党が少数化したとしても、依然として意思決定の力=リーダーシップは与党にあって、野党は要求(お願い)するだけである。緊張感ある議論、議論の質の向上とは、与野党の理論闘争が全面的に展開されねばならない。

 まだ与野党(とくに野党)が新事態に不慣れだからかもしれない。しかし、万年野党化したために、与党に対する要求(お願い)しかできないのであれば、それは野党側が改善しなければならない。

 つまり、野党には政権を担う用意がないのであれば、数で増えたとしても、政治の質を向上させる力がないことになる。

 次の国会では、2025年度の予算審議が柱になる。政府は、当初予算案として一般歳出115兆5400億円を決定した。税収が78兆4400億円で、国債は28兆6500億円と見込まれているが、赤字国債が定常化している事態は相変わらずである。

 野党が陳情団体よろしく、要求(お願い)ばかりやるのであれば、借金依存体質は悪化する一方である。これが招く最悪の事態を考えると、とても落ち着いてはいられないだろう。

 野党のリーダーシップは、無為無策の借金経営を続ける与党の政治路線を変えるものでなければならない。個別の施策で、わが党の要求が通りましたと大きな顔をするのは永久少数野党の発想に過ぎない。