論 考

人つぶし国

 国土が狭く、資源が少ない、人口だけが多い。そこで、わが国には人という貴重な資源があるじゃないか。とポジティブに考えて、経営者は、「わが社は人を大切にする」と語る向きが多かった。

 現実には経営者の意を理解しない管理・監督職も少なくないから、きれいごとばかり言うという批判もあったが、それでも「人を大切にする」という言葉はめざすべきエートスとしての存在感があった。

 しかし、1990年代のバブル崩壊以降は様変わりで、2000年代から非正規社員が急速に拡大した。自由な働き方の職場が拡大するのはよろしいが、全体をみれば規制緩和の悪しき典型として非正規社員が拡大した事実を否定できない。

 さらに悪名高いのが技能実習制度である。国際的人づくりに貢献するという看板は恥ずかしいどころではない。国を挙げて悪辣な「人買い」をやっているといわれても反論できない。

 人づくりではなく「人つぶし」である。人つぶしが基調の国で人口が減るのはきわめて健全な反応である。第二次世界大戦以降、イギリスでは、「ハンドからヘッドへ」が産業界のスローガンだった。

 産業界だけではない、社会において必要とされるのは手ではない。頭である。戦後民主主義は78年の時間が過ぎたが、人つぶしを批判しなければならない現状をどう考えたらよいだろうか。