論 考

軍事先行には要注意

 朝日新聞が、6月6日から6月12日まで、――台湾海峡が「日本有事」に? 自衛隊、その時どう動く――というシリーズ企画を掲載した。

 「米中対立のなか、中国が台湾への軍事的圧力を強化している。武力衝突は切迫していないが、台湾有事となれば、日本も無関係ではいられない」という視点からあれこれ情報をかき集めたものである。

 普通の読者としては、情報の裏付けを取るのが難しい。とりあえず、真偽ないまぜとして通読した。

 台湾有事、すなわち中国が台湾へ侵攻するという見方として、3月9日に米上院公聴会で、デービッドソン米インド太平洋軍司令官が、「6年以内に中国の台湾侵攻の可能性あり」と発言した。発言の理由について確実な証拠はない。いわばデービッドソン氏の推測である。

 軍が予算獲得のために危機を喧伝するのは常套手段であるから、最前線の専門家の発言だとして簡単に信用するのは危ない。確実な証拠がないのに、発言内容だけがあちこちへ飛び交ううちに、真実だと信じ込まれる危険性がある。実際、この発言の影響はかなり大きく、内容が独り歩きする傾向にあった。

 そこへ、ロイターによると6月17日には上院公聴会で、マーク・ミリー統合参謀本部議長が、「中国が近い将来、台湾を軍事的占領する可能性は低い。占領する意図も動機も見られない」と発言した。デービットソン氏と正反対である。

 もちろん、これまた確実な証拠は得難い。そこで、大方の場合、最悪に備えて「防衛体制」をおさおさ怠りなくやるというのが軍事的防衛論の柱である。疑心暗鬼、不信感が前提であるし、双方が最悪に備えるわけだから、自転車のペダルを踏み続けるしかないという出口なしの物語に閉じ込められる。

 軍事力による平和構築が本当に妥当なのか、つくづく考えさせられる。朝日のシリーズも最後は尻切れトンボ。台湾有事論が独り歩きしないことを期待する。