週刊RO通信

アメリカにアメリカだけでないものを見た

NO.1389

 「連邦議会への極悪な攻撃について、すべてのアメリカ人と同様に激怒している」、こんな行動に走った人々はアメリカの民主主義の座を汚したものであり「この国を代表しない」――議事堂乱入後、1月7日のトランプ氏の発言である。ただし、どん詰まりにきて正気に戻ったのではない。

 群衆に向かって、議事堂で無法行為に至った行動を鼓舞する発言をしたのはトランプ氏自身であり、その成功! に対する報酬が強い非難である。群衆諸氏はトランプ氏と思いを共有していると確信していただろう。誘惑されて捨てられた。英雄から反転して「国辱人」にされた。

 彼らはトランプ氏を国家だと信じ、不正な選挙を認めてはならぬと行動した。トランプ氏の数々の嘘は聞き飽きたが、7日の発言はとりわけ秀逸である。トランプ氏には、自分の野心的立場しかないことを証明したからだ。自分についてきた同志でも舌先三寸で平然と切って捨てる。

 アメリカの大統領は、共和制を維持するために、大統領が国民的意志に服従しているのが大前提である。そこから連邦の唯一無二の執行権の代表者ということになっている。だから、議会が国民に不都合な法律を決議すれば、大統領は拒否権を行使できる。

 執行権者だから、大統領は法律の作成には関与していない。大統領は議会には入らないが、同意しないことによって法律を拒絶できる。さらに、議会が再度決議すれば法律は成立する。立法と行政の分離が明確であり、大統領権限は大きいが、大統領は議会に従属している形である。

 大統領はいかに権限が大きかろうと、選挙される役人である。だから、大統領=行政権力の監視役として上院が存在する。選挙される役人としての大統領権限は、つまるところ国民=世論が最大の支援・支持者である。これがアメリカ的三権分立の構築である。

 大統領(権限)とは、人民による政治方針を画然と弁えたものである。トランプ氏が4年間、きわめて怪しい言葉を放出しつつも、再選をめざす大統領選挙で有権者票の47%を獲得した。見えざる信頼感が支持者との間に確固として存在したというべきだろう。

 常識的には、政治家が発する言葉は嘘や憶測であってはならず、怪しい言葉によって政見を発表するのは根本的にルール違反である。それでも有権者の半分近くがトランプ支持の投票をしたのだから、見えざる信頼感そのものを批判しても仕方がない。カリスマ=人気は、もともと掴みにくい。

 トクヴィル(1805~1859)は、名著『アメリカの民主政治』において、大統領選挙の危険性を指摘した。――きわめて権限が大きい大統領職は、個人的な野心家に大きな誘惑を与える。野心家は、優れた政治をすることではなく、権力追求に熱中するだろう。そして、合法的な手段だけでなく、暴力にも訴えるであろう。個人の野心が超膨張して、人々を巻き込む。――まるで、今回の騒動を見通したような見解である。

 嘘やデマが飛び交い、人々の間で力を発揮するのは、革命のような場合である。革命の推進者にとっては、嘘でもデマでも構わない。革命達成に好都合であれば、なんでも飛びついて拡散させる。議事堂に突入した英雄的! 群衆は、革命ごっこに胸躍らせていたであろう。

 トランプ氏は大統領権限を専制権力化しようとした。ここで議会が猛反発した。議会に暴力的侵入をしたのみでなく、それは共和制を支える議会政治を破壊する行為であるから、議会の反発は当然であった。

 大統領は、連邦制において国民統合の象徴である。だから大統領は国論分裂を自ら起すような愚行はしない。トランプ氏は自らの野心に溺れて、国論分裂を野心達成の手段とした。その集大成が議会乱入事件となった。

 多くの嘘や偏見を武器として人々を煽った。トランプ氏自身が形勢不利と思えば、自分の支持に従った人々をいとも簡単に切って捨てる。野心家トランプの面目躍如であり、同時にそれは、みじめな末路である。

 ツイッターが、言葉の真実を無視したトランプ氏のアカウントを永久停止した。もし、この4年間、ツイッターが武器として駆使されなければ! 政治家が真実を語るか否か、それを判断できない国民は欺かれて踊るばかりだ。