論 考

繰り返す、トランプ氏は民主主義者にあらず

 アメリカ大統領選挙は、民主主義という名が似つかわしくない、泥仕合的様相を深めるのではないか。そのようにならないことを期待する。

 選挙戦のリーダーシップを取っているのは、トランプ氏だ。相手と味方の陣営に分断する作戦であるが、単に違いを際立たせるのではなく、自陣営でない相手はすべて敵として、なおかつ憎しみの言葉を浴びせる。選挙戦というが、その精神状態はまさに戦争である。1860年の南北戦争に例える論調もある。

 2004年の選挙戦で、オバマ氏は「リベラルなアメリカも、保守的なアメリカも、あるのはアメリカ合衆国だ」と語ったような雰囲気は全くない。

 選挙の精神は「人間の尊厳」を有権者全員が共有していなければならない。他国のことではあるけれども、トランプ氏のような政治思想をもつ人間を大統領に選出するのは、民主主義国アメリカを確実に貶める。

 しかも、トランプ氏は自身を「思いやりのある指導者」だと自賛する。粗にして野にして卑の権化である。民主主義の価値は、結局、有権者1人ひとりの高邁な思想にかかっている。

 このような大統領との関係がうまく行ったと書く、わが新聞論調を見ると、独立国の誇りも意地も感じられない。