2014/08
解雇に関する解決金の水準比較 石山浩一


 
 厚労省が発表した25年度の総合労働相談における個別労働紛争は、いじめ・嫌がらせが増加にあり、2年連続でトップとなっている。これまで10年間トップだった解雇が減少して2位となった。しかし、解雇を含む退職勧奨と自己都合退職の合計は横ばいとなっている。(先月号本欄参照)
 東京大学社会科学研究所が2010年7月12 日〜同11月11 日に「労働審判制度についての意識調査」を行っている。調査は労働審判における事件種別を5つの項目に分類し、労使それぞれに聞いている。その結果、労働者側では「解雇」が69.3%、「賃金・手当」が60.0%、「配転・出向」が4.3%、「セクハラ・パワハラ」が31.0%、「その他」が5.7%である。
 使用者側では「解雇」が68.8%、「賃金・手当」が43.2%、「配転・出向」が2.3%、「セクハラ・パワハラ」が8.0%、「その他」が5.7%だった。(複数回答のため合計は100%にならない)。
 これらの裁判を含めた個別労働紛争の解雇に関する解決金水準は下記のようになっている。


労働審判(調停・審判)雇用終了関係事件の内容と水準
 労働審判での解決金は事件内容に係らず、採用内定取消を除くと懲戒解雇が4.3ヶ月と比較的高い。続いて普通解雇が3.9ヶ月、「その他」は3.4ヶ月前後で、それ程大きな差はない。
 金額的には100万円が目安となっているようである。
                                  (数字はすべて中央値)
        月額請求   解決金   解決水準   N 
雇用終了関係事件計
        29.5 万  100.0 万   3.4 ヶ月   128
整理解雇    30.0 万   100.0 万   3.5 ヶ月    40
懲戒解雇    31.0 万   144.0 万   4.3 ヶ月    21
普通解雇    28.0 万   100.0 万   3.9 ヶ月    33
退職強要・退職勧奨
          30.0 万   100.0 万   3.4 ヶ月    37
雇止め     18.0 万    60.0 万     3.2 ヶ月      19
採用拒否      27.0万    100.0 万     3.6 ヶ月       8
                      

紛争調整委員会(都道府県労働局)のあっせん(雇用終了事案)との比較
 労働審判の解決金(100 万円)はあっせんの解決金(17.5 万円)と比較すると高い水準となっている。ただし、問題発生から解決までの期間は、あっせんが2.4ヶ月であるのに対し、労働審判は6.4ヶ月で4ヶ月長い。

                                          問題発生から
           請求額(全体額)   解決金    解決までの期間 
労働審判   300.0 万円      100.0 万円        6.4 ヶ月
あっせん    50.0 万円       17.5 万円        2.4 ヶ月
(あっせんの数値は労働政策研究・研修機構統括研究員 濱口桂一郎氏による特別集計)


裁判(裁判上の和解・判決)との比較
 労働審判での雇用関係終了との比較では解決までの月数が短い分、解決金の絶対額は小さくなっている。中央値と平均値との乖離は、解決金が中央値より高額に分布していると推定される。判決の中央値が0円は敗訴等である。
 裁判上の和解(和解金)と比べると、問題発生から解決までの月数を考慮した、解決金と請求額の比率は大きな違いはなかった。(労働審判0.53、裁判上の和解0.48)

            解決金  問題発生から 標準化した
           月額請求   認容額 解決までの期間  解決金
        (A)   (B)      (C) (B/A)/C 
労働審判    29.5 万円   100.0 万円  6.4 ヶ月   0.53
    平均値  46.0 万円    131.4 万円   8.3 ヶ月    0.70
裁判上の和解 40.0 万円    300.0 万円  15.6 ヶ月   0.48
    平均値   48.2 万円  666.5 万円 21.7 ヶ月  0.80
判決         37.3 万円      0.0 万円  28.6 ヶ月    0.00
    平均値   49.8 万円  609.9 万円 33.7 ヶ月  0.39
(裁判上の和解・判決の数値は一橋大学経済研究所准教授・神林龍氏による特別集計)


石山浩一 
特定社会保険労務士。ライフビジョン学会代表。20年間に及ぶ労働組合専従の経験を生かし、経営者と従業員の橋渡しを目指す。http://wwwc.dcns.ne.jp/~stone3/


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