2014/07
「解雇」の相談減少、退職に関する相談は横ばい石山浩一


 平成25年度の個別労働紛争解決状況を厚労省が発表した。
 個々の労働者と事業主との労働条件等のトラブルによる相談件数は1,050,042件で、昨年度に比べて1.6%減少しているものの、6年連続で100万件を超える高水準を維持している。その中身には少し変化があり、「いじめ・嫌がらせ」が増加した半面、「解雇」に関する相談が減少している。
 個別労働関係紛争を早期に解決するための法律が平成14年に施行されて以来、10年間トップだった「解雇」に関する相談が昨年から2位に後退した。代わりにトップとなった「いじめ・嫌がらせ」は、昨年の17%が今年は19.7%とさらに増加、逆に「解雇」が昨年の16.9%から今年は14.6%と減少している。
「解雇」は減少しているが不本意な退職者数は横ばいであり、職場の「いじめ・嫌がらせ」と不本意な退職との関連性が疑われる。


民事上の相談件数「いじめ・嫌がらせ」が2年連続トップ
 最近5年間の相談件数と相談件数に占める民事上の個別労働紛争の推移は次の通りである。
          
  平成21年度   22年度   23年度   24年度   25年度

総合相談件数
  1,141,006 1,130,234 1,109,454 1,067,210 1,050,042
民事上の相談件数
   247,304  246,907  256,343  254,709   245,783
    (21.7%)  (21.8 %)     (23.1%)    (23.8%)   (23.4%)
(総合件数に占める割合)
いじめ・嫌がらせの件数
       35,759     39,405     45,939     51,670     59,197

 総合相談件数はわずかに減少しているが、この法律が施行された11年前は6,627件だった「いじめ・嫌がらせ」の相談件数が、約9倍と増加している。
「いじめ・嫌がらせ」はパワハラと同意語として使われているが、同じ内容のことを言われても、教育や指導のための激励と受け止める人がいる半面、暴言と感じる人にとってはパワハラとなる。
 セクハラの場合は、不快に感じたことがセクハラと定義されている。対応がしやすいことから、職場でのセクハラは減少しているように思われる。
 一方パワハラの難しさはこれに関する証拠が特定されず、労働法に規制する条文がないため民事上の相談となるケースが多い。定義を定めて職場環境の問題として労働法による扱いができるようにすべきである。
 相談電話などで「パワハラがひどいために退職する」ということがよくある。こうしたことからパワハラが退職に繋がっているということは推測されるが、その実態調査は行われていない。


減少する「解雇」に関する相談件数
 解雇等の退職に関する相談件数の推移は次の通りである。

       平成21年度  22年度  23年度  24年度  25年度

解雇の相談件数
       69,121  60,118  57,785  51,515  43,985
退職勧奨の相談件数
       26,514  25,902  26,828  25,838  25,041
自己都合退職の相談件数
       16,533  20,269  25,966  29,763  33,049
退職に関する相談合計
       112,168 106,289 110,579 107,116  102,046

 「解雇」に関する相談は、最も多かった平成21年度の1/3程度と少なくなっているが、日本経済が穏やかな回復基調にあり、リストラが一段落したことを反映しているものと思われる。同時に、最近は外食産業や流通関係の人手不足が報じられており、「解雇」に関する相談は更に減ることが予想される。
 しかし退職勧奨に関しては10万件台で推移し、自己都合退職に関する相談は増加傾向にあるなど、退職に関する相談件数はそれほど減少していない。前述の「いじめ・嫌がらせ=パワハラ」を受け行政等に相談せず退職する人を考えれば、不本意な退職の実数はもっと多いと思われる。
 最近マスコミで報じられているように、ブラック企業等が行っている、解雇とはせず自主退職に追い込んでいくことによる退職もあり、不本意な退職を減らすことが求められている。
 同一企業から不本意な退職者がある程度出た場合は企業名を公表するとか、職場の管理職に対する苦情処理への対応マニアルを考えるべきである。


石山浩一 
特定社会保険労務士。ライフビジョン学会代表。20年間に及ぶ労働組合専従の経験を生かし、経営者と従業員の橋渡しを目指す。http://wwwc.dcns.ne.jp/~stone3/


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